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ファウスト

Faust(1926)

Director
フリードリッヒ・W・ムルナウ

Cast
エミール・ヤニングス / ウィルヘルム・ディターレ / カミーラ・ホルン / ゲスタ・エクマン

Production Company
ウーファ

ゲーテの物語を、『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)で知られるドイツの巨匠F・W・ムルナウが、グレートヒェンの悲劇を中心に描いた作品。映画創生期におけるドイツ映画は芸術性が高く素晴らしい作品が多いのは皆様御承知のことと思うが、本作のスケール、特撮技術も凄まじい。まさに映画というものは昨今流行のCGのような先端技術に頼らずとも、時代を超越した先鋭的な感覚によって生み出されるということを実感する、時代を感じさぬ傑作である。

天界。大天使ガブリエルに歯向かう悪魔メフィストは、どんな人間でも堕落せしめ破滅へ導くことができると主張しガブリエルと賭けをする。この賭けの対象となるは老学者ファウスト。手始めにメフィストはファウストの住まう街へペストを蔓延させる。死の病魔を前に、成す術もなく自らの無力さを実感するファウストは、藁にもすがる気持ちで悪魔を呼び出してしまう。やがてファウストは、言葉巧みに迫るメフィストの誘惑に抗し切れず、自らの魂と引き換えに若さと富を手に入れる。若返ったファウストはグレートヒェンという純真な娘と恋に落ちるが、メフィストの策略によって二人の運命は引き裂かれ、その先には悲劇が待ち受けるのであった。

冒頭からいきなり登場する骸骨の馬に乗り空を駆ける骸骨剣士達、ペストを蔓延させるべく街を覆い尽くすメフィスト、十字路で魔方陣を描き呪文を唱えるファウスト、メフィストと共に空を飛ぶファウスト、と時代を全く感じさせない特撮技術のオンパレード。1926年に制作されたとは俄かには信じられぬこれらの映像のためだけでも本作を観る価値は充分にあるだろう。しかし、『ファウスト』(1926)が傑作たる所以は決して特撮技術が優れているからだけではない。エミール・ヤニングス扮するメフィストの圧倒的な存在感は特撮技術に一歩も引けを取らず、歌舞伎を連想させる大仰な演技から醸し出される強烈な胡散臭さは、初見時には違和感を覚えたものの、それ故に悪魔という妙な説得力を持つ。

そして何よりも、難解なゲーテの原作を感動的な悲恋の物語とした脚本がいい。メフィストの計略によって不幸の底に突き落とされていくグレートヒェンは、やがて悲劇的な末路を迎える。しかし、死の間際においてもなおグレートヒェンは、不幸を招きいれた元凶でもあるファウストに対し一途な信頼を寄せているのである。このひねくれた私でさえも、思わず素直に感動させてしまう程に力強く展開される脚本。いい。実にいい。サイレント映画は古臭いと考えている方にこそ、是非とも見て頂きたい傑作。