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A・ブラックウッド

Algernon Blackwood(1869-1951)

あまりアルジャーノン・ブラックウッドと聞いてピンと来る人は少ないであろう。彼はアーサー・マッケンやM・R・ジェイムズらと同時代のやや古典的な怪奇小説作家である。彼の代表作の幾つかはよくアンソロジーに収録されているので、おそらく私と同好の士であれば、彼の作品を目にしたこともあろう。彼の小説の大きな特徴は日常的なありふれた事柄や自然の中から、神秘的な超自然の恐怖を描き出す点にあり、代表作の一つとされる「犬のキャンプ」等もまさにそのテーマを踏襲している。

私が最初に彼の作品に触れたのは、創元推理文庫の『怪奇小説傑作集第一巻』に収録されていた「秘書奇譚」であった。最初にこの作品に触れた時に私はさして恐いとも感ずることもなく、むしろつまらないとさえ思ったのであったが、後に本書『ブラックウッド傑作選』おいて「犬のキャンプ」を読み、とにかく私はそれに魅了された。自然の中でキャンプを行ううちに、自らの血が野性化していくというその物語に私はいいようのない不安と恐怖、そして同時にまた、自らの血筋に対する激しい「血の恐怖」に脅えた。

ラヴクラフトの「インスマウスの影」の所でも少し述べているが、当時の私は今以上に自分の体に流れる両親からの血というものを嫌悪し、意識せずとも徐々に両親に似通っていく自分自身が恐怖の対象であった。その事もあってか、私は小説の読み方もかなり偏屈になっていた。この「犬のキャンプ」も健全な精神の持ち主が読めばただの怪奇小説でしかないかもしれない。しかし、私にとっては、自分の精神の奥深くに潜む闇を激しく刺激するものであったのである。おそらく一般的な評価としては、この「犬のキャンプ」と似通ったテーマを持つ「いにしえの魔術」の方が評価が高かろう。こちらはより幻想的な雰囲気を濃厚に漂わせており、幻想的な神秘譚といった趣が強い。私は小説としては「いにしえの魔術」の方が好みではあるが、自分自身の内面的恐怖と対峙させられたという意味において「犬のキャンプ」も同等に思い入れのある作品である。

ブラックウッドは、スティーブン・キングを筆頭とする現代のモダン・ホラーに比べて古典的な優雅さに溢れた怪奇小説作家であり、夜に独りで酒を片手に読みたくなる様な類の珠玉の作品が数多くある作家である。是非一度その世界を覗いてみて欲しい。