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B・ストーカー

Blam Stoker(1847-1912)

吸血鬼と言えば、ドラキュラ。怪奇小説、怪奇映画にさほど詳しくない方でもその名を耳にしたことがないという人はいないだろう。ドラキュラは吸血鬼の代名詞であり、悪のイメージの権化でもある。しかし有名過ぎるが故に、その小説に直に触れ、ドラキュラと吸血鬼信仰、そしてヴラド・ツェペシュとの関係性を正確に知る人は少ないように思われる。ドラキュラを創造したのは、ブラム・ストーカーというこの小説家であり、実在のヴラド・ツェペシュという歴史上の人物と関係性を持たせたのも完全な彼の創作によるものである。

そもそも、東欧一帯には、吸血鬼信仰というものが存在し、これは、日本の鬼であるとか、妖怪の類に非常に似通った存在として純粋に民間信仰として吸血鬼の存在が信じられていた。この民間信仰における吸血鬼、そして東方キリスト教協会によって歪んだ中世魔術的世界の噴出を具現化した吸血鬼現象(魔女狩りの東欧版と言えば分かりやすいだろうか)に関する歴史的事件を背景に、吸血鬼信仰を小説風に仕立て、15世紀の実在のワラキアの君主であり、その残忍性で有名であったヴラド・ツェペシュと結びつけたのが、彼の傑作小説『吸血鬼ドラキュラ』である。

ところがストーカーは、残念ながら小説家としてはさほど高い評価を受けてはいない。無論、先に挙げた『吸血鬼ドラキュラ』は文句なく傑作なのであるが、それ以外の彼の小説はごくごく平凡なものであり、邦訳されているものも非常に少ない。国書刊行会から『ドラキュラの客』として彼の短編小説が邦訳されてはいるが、やはり『吸血鬼ドラキュラ』に見られるような創造性の発露は見当たらない。「ドラキュラの作者の他の作品」というフィルターを通してでないと、読む気すらあまり起こらないというのが正直なところである。

とはいうものの、やはり彼の才能が開花していた時期は確実にあったのであり、『吸血鬼ドラキュラ』は間違いなく、怪奇小説として非常に読み応えのある作品である。映画に負けるとも劣らない展開、そしてよく練り上げられた構成。まさに彼の最高傑作であり、今後も吸血鬼小説の中に燦然と輝き続けるであろう屈指の名作である。芸術のあらゆる方面に多大なる影響と刺激を与えたその原典、それこそが『吸血鬼ドラキュラ』である。