ラヴクラフト。怪奇小説の世界では有名な作家である。怪奇小説を愛する者でこの名を知らないという人間はいないと言ってもよかろう。かのスティーヴン・キングがラヴクラフトを敬愛している、と言えば一般的にその凄さが分かっていただけるだろうか。しかし彼の文体は残念ながら小説家としてはあまり高い評価を受けていない。非常に過剰な装飾語を多用し、主述が不明確であるという批判はそれこそいくらでも見受けることがある。しかし逆説的ではあるが、彼の素晴らしさは逆にそこにこそあるとも言える。まるで何かに取り憑かれたかのように執拗に描写をする彼の文体は、それを信じている者だけが、その悪夢の中で生きている者だけが伝えることのできる恐怖を我々に伝えているのである。彼の小説の原案の殆どは、自身の夢から得たものであるという話は有名であるが、彼自身の内面的恐怖、精神的な不安が彼の小説には如実に現れており、それが我々の心に伝わるからこそ、ラヴクラフトは最高の怪奇小説作家なのである。
また、彼の怪奇小説には大きな特徴がある。それはクトゥルフ神話である。これは発音不可能な文字の為、翻訳者によってクトゥルーであったり、ク・リトル・リトルであったりするのではあるが、私は個人的にクトゥルフが好きなので、このHPではクトゥルフで統一することにする。そのクトゥルフ神話とは、我々人間がこの地球を支配する以前に宇宙からの大いなる支配者達が地球を支配しており、我々人間はその暗黒の神々の神殿の形跡や、彼らの眠りを妨げることによって、精神と生命の大いなる危機に直面する、というものである。このクトゥルフ神話は小説単品で描かれるのではなく、クトゥルフ神話体系に属する複数の小説によって徐々にその輪郭を現すという点が特徴的であり、またラヴクラフト・サークルと呼ばれる一連のオーガスト・ダーレスやロバート・ブロックらの小説家達の作品も巻き込んで展開されたのも特徴である。コアなラヴクラフト・ファンはダーレスが後に完全に善悪二元論として体系づけたクトゥルフ神話を嫌い、ラヴクラフト本人のものこそが真のクトゥルフ神話であり、真の混沌なのである、と主張するが、私もそれに全く同意見である。
現在ラヴクラフトの著作は数多くの出版社から入手することは可能であるが、やはり私としては国書刊行会の怒涛の全集(絶版)もよいが、一般的には創元推理文庫の全集をお勧めする。何よりも書店で簡単に購入できるし、代表的な作品は殆ど網羅してあるからである。ちなみに創元版はまだ完結していないのではあるが、おそらく完結することはもう望めないかもしれない・・・。
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