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ラヴクラフト・ベスト5

Lovecraft Best5

ラヴクラフト・ベスト5。我ながら随分とミーハーな企画であると実感しているがまぁ、それもよかろう。ここでは私の好きな彼の作品に敢えて順位をつけてみようと思う。


第1位 インスマウスの影

■ストーリー
成人に達する記念にニューイングランドを旅して回っていた私は、母方の出身地であるアーカムという街を訪ね、そこでインスマウスという寂びれた小さな漁村に関するいかがわしい噂を耳にする。地図にも載っていないその村に興味を抱いた私は翌日インスマウスへと向かうが、まるで奇形の魚のような面相をした村人達や、怪しげな雰囲気に包まれながら私はその村に一泊することを余儀なくされる。そして私は語るも恐ろしい恐怖の一夜をその宿で過ごし、命からがら逃げ出すのであるが・・・。

■コメント
これは創元推理文庫版の全集の第一巻の最初に収録されている作品であり、必然的に私が一番最初に読んだラヴクラフトの作品である。そのことも手伝ってか私の中でこれは特に印象の深い作品である。当時高校生であった私はこの小説を部活の帰りに電車の中で読み終わり、何とも言えぬ後味の悪さに恐怖し、電車を降り家に歩きながら向かう最中何度も後ろを振り返った記憶がある。それほど私はこの作品で脅えた。主人公が経験するインスマウスでの恐怖の一夜もさることながら、自らの血筋に対する恐怖に私は非常に空恐ろしい思いをしたのを覚えている。何度読み返してみてもその思いは今でも変わらない。全集の最初を飾るに相応しい非常に優れた作品である。


第2位 アウトサイダー

■ストーリー
廃虚と化した城に幾月もの年月も独り住んでいた余は、孤独に苛まれ、ある夜外へと向かうことを決意する。しかし、そこで余が知らさせた冷酷な現実は、余の希望を残酷にも打ち砕くものであった。

■コメント
創元版全集の第三巻に収録。ラヴクラフトの作品としては初期の部類に属し、ポーの影響が濃厚に感じ取られる文体が特徴的である。特に創元版の翻訳は素晴らしくポーを意識させる。晩年ラヴクラフト本人は、この作品に対して厳しい評価を下していたようだが、一般的にはアンソロジー等にもよく収録される代表的作品である。私はこの作品を読んだ時、実は半ばで結末に気づいてしまっていた。しかし、その濃厚な文体と、激しい孤独感と世間に拒絶されているという悲しみに非常に惹かれ、気に入っている作品である。私自身、社会から精神的に隔絶されているという孤独感に押しつぶされそうになることが多いし、特に高校生の頃はその傾向が強かったので、この部分に共感したのであろうことは間違いない。だからこそ「ラヴクラフトは青春時代の小説でしかない」等という手厳しい批判を多々見受けるのではあろうが、優れた作品であることに変わりはない。


第3位 エーリッヒ・ツァンの音楽

■ストーリー
哲学を学んでいた学生の私がかつて住んでいた下宿先の屋根裏には、エーリッヒ・ツァンという名の年老いたヴィオル弾きが住んでいた。毎夜ツァンの弾くこの世の物とも思えぬ独創的な音楽の旋律に魅了された私は、ある日ツァンの部屋を訪ね、例の奇妙な旋律の曲を演奏してくれるように頼み込む。しかし、老人は私がその旋律を口にするやいなや、激しく怒り、私を部屋から追い出してしまう。そして数日後、ツァンの部屋の扉越しに彼のヴィオルを聴いていた私は、その旋律が異常なまでの激しさを伴い、そしてそれが悲鳴と共に絶たれるのを聴く。驚き部屋の中へと踏み入れた私は・・・。

■コメント
創元版全集の第二巻に収録。まだラヴクラフト初期の香りが漂う短編であるが、後味の奇妙な感覚や、クトゥルフ神話の作品等に比べて幻想的な色彩が強い点が私は気に入っている。第二位に選んだ「アウトサイダー」同様ラヴクラフト初期の作品には、比較的幻想的なものが多いのが特徴であり、後期のややどろどろとした怪奇小説に比べると、奇怪な小説といった感が強く、より私の趣向に合ったものが多いようである。


第4位 クトゥルフの呼び声

■ストーリー
大伯父のエインジェル教授の死によってその遺品を整理していたぼくは、粘土造りの奇妙な薄肉浮彫りと、不審なメモや新聞の切り抜きを手にした。その奇怪な内容から、独自に調査に乗り出したぼくは、大伯父の突然の死に不審な点があることを発端に、大いなる古の神、クトゥルフの存在をやがて知る。深き海底に眠るクトゥルフ、そしてその復活の時を待つクトゥルフ教団、やがて来る大いなる恐怖・・・。調査が進むにつれその歴史に隠された大いなる恐怖が眼前に開かれていく。

■コメント
創元版全集の第二巻に収録。ラヴクラフトの最も代表的な作品であり、クトゥルフ神話体系の根底となるべきものである。人によってはこの作品がベストである場合が多いかもしれない。とにかく圧倒的な構成と発想の素晴らしさ、徐々に明かされていくクトゥルフの恐怖と人間という存在の絶望的なまでの儚さ、この作品がラヴクラフトの最高傑作であることは間違いがない。クトゥルフ神話の唯一の聖典であることを除外しても、充分に魅力溢れる作品である。にもかかわらず私の中で第4位という位置に甘んじているのは、私個人の趣向がやや幻想という趣を好むからにすぎない。とにかく圧倒的な宇宙的恐怖に脅えること間違いない、ラヴクラフトの傑作中の傑作である。


第5位 ダニッチの怪

■ストーリー
マサチューセッツの僻村ダニッチで、黒魔術を行うと噂されていた旧家ウェイトリイ家に父親が誰とも知れぬ男の子が誕生する。ウィルバーと名付けられたその子供は長ずるにしたがって異常なまでの発達をし、身の丈2メートルを超す青年となる。やがて彼はミスカトニック大学へと赴き禁断の魔道書『ネクロノミコン』を無断で閲覧しようとして死亡する。しかし、彼の死亡を期にダニッチでは恐ろしい事件が起こり始めようとしていた・・・。

■コメント
創元版全集の第五巻に収録。実はこちらを挙げるか、「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」を挙げるかで、かなり悩んだ。結果的に「ダニッチの怪」を推した直接の理由は「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」を選ぶと、創元版全集の第二巻に集中してしまい、全集全体を俯瞰するような選択とならない、という程度の理由でしかなかった。そもそもラヴクラフトの作品全てが好きなのであるから、順位をつけるのはかなり困難な作業なのである。この作品はテーマ的にはさして目新しいとは言い難いが、とにかくラヴクラフトの創造する怪物の奇形さがとにかく尋常ではないのが恐怖感を募らせる。作品そのものに対する恐怖も然る事ながら、その病的な彼の想像力そのものに私は恐怖と戦慄を覚えたのを今でも鮮明に思い出すことができる。