いきなりではあるが、質問である。
「ロバート・ブロックと言えば?」
上の問いに「サイコ」と答えた方は昼の世界の住人であるか、まだまだ怪奇幻想の世界に足を踏み入れたばかりの方であるかもしれない。「クトゥルフ」と答えた方、なかなかいい線いっているが、まだ私をニヤリとさせるには残念ながら至らない。では私ならば何と答えるのか?そう、やはりロバート・ブロックといえば、「アミカス」である。とはいえ、いきなりそんなマニアックな世界に突入しても恐らく誰もついてこないであろうと思うので、やはりここは順を追って紹介するべきであろう。
アルフレッド・ヒッチコックが『サイコ』(1960)を映画化したことで一躍その名を知られたロバート・ブロックは、17歳にして作家としてデビューした当初はラヴクラフトを師と仰ぐ、いわゆるラヴクラフト・サークルと呼ばれる若手作家の一人であった。現在「サイコ」を除いて日本で最も多く目にすることができるブロックの作品の多くは、この初期に執筆されたクトゥルフ神話体系に属するものが大半を占め、それが日本ではブロックの評価を低く留めてしまっている一因になっているようにも思われる。
しかしブロックの真髄は、それら初期の作品ではなく「サイコ」にも見られるような、流麗な語り口によるストーリーの流れにある。初期の頃の作品はラヴクラフトの影響をまともに受けたため過剰な修飾語やいかめしい文体が多く、その才能が充分に発揮されているとはとても言い難いが、中期から後期にかけての作品や、彼が手がけた映画やテレビの脚本の多くには、彼のウィットに富んだ流れるように巧みな文体のものが多い。
そんな彼の才能が小説という分野を超えて発揮されたのが、怪奇映画の世界である。ブロックのショートショート的な脚本はイギリスの怪奇映画制作会社アミカス・プロダクションによって一連のオムニバス・ホラーとして映画化され、アミカス・プロは当時同じイギリスの怪奇映画制作会社として今もなお不動の名声を誇るハマー・プロと共に良質なブリティッシュ・ホラーを生み出したのであった。
ブロックの最高傑作はやはり、「サイコ」である。ヒッチコックの映画は確かに名作ではあるが私が思う限りではブロックの原作の方がぐいぐいと引き込む魔力を持っていると思う。この度、創元推理文庫から「サイコ」の新訳版も出版され、何とヒッチコック版を完全にリメイクした(何と脚本から、カメラワークまで全てがオリジナルと同じ!!)『サイコ』(1998)も映画化され、ブロックの再評価の時はそろそろ訪れているのかもしれない。
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