Metropolis (1927)
Director:フリッツ・ラング
Cast:ブリギッテ・ヘルム / アルフレッド・アベル / グスタフ・フレーリッヒ / ルドルフ・クライン・ロッゲ
Production Company:ウーファ
今更我がサイトで紹介するまでもない程に映画史に燦然とその名を刻む、サイレント時代のドイツ映画の最高傑作の一つ。全てのSF映画の原点にして頂点と言っても過言ではあるまい。本作を観れば、この時代のドイツ表現主義が如何に素晴らしい芸術性と、思想性を兼ね備えていたかが良く分かる傑作である。
2026年の未来。文明は高度に発展し、平和と繁栄が築かれていた。しかし、その実態は摩天楼に住む一部の知的階級と、地下で過酷な労働を強いられている多くの労働者階級に支えられた階級社会であった。ある日、支配的権力者の息子であるフレーダーは労働者階級のマリアと出会い、その矛盾した社会の実態を知り、社会の改善の必要を悟る。しかし、息子のその思想に危機感を抱いた権力者であり父親のフレーダーセンは、マリアを誘拐し、アンドロイド・マリアを地下社会へと送り込むのであった。
本作『メトロポリス』(1927)は『スター・ウォーズ』(1977)のC-3POのデザインの元となりながらも、C-3POが足元にも及ばない程に秀逸なアンドロイド・マリアのデザインが特に有名である。しかし、残念なことにロボットの状態でフィルムに映るのはほんのわずか数秒間でしかない。それでもなお、時代を超越したその流線型の洗練されたデザインは、強烈なインパクトを放っている。
しかし本作が傑作たる所以は、アンドロイド・マリアのデザインの秀逸さによるものだけではない。死者のように疲れ果てた労働者達の昼夜交代の入れ替えのシーンの重苦しさ。そして機械に人間が振り回される過酷な労働。そんな搾取の上に成り立っている摩天楼の虚構の平和と近未来的な都市デザイン。全てが全て素晴らしい。芸術的なデザインの中に織り込まれた思想の、何と陰鬱で鋭いことか。ハリウッドが娯楽性のみを追及して今に至っているのに対し、ドイツ表現主義には独特の影と芸術性がある。
なお、『メトロポリス』には1984年にジョルジオ・モロダーが一部に編集や彩色を加え、パット・ベネターやクイーンら当時のロック楽曲を乗せて公開した版も存在する。古典的名作を歴史に埋もれさせまいとするこの心意気を私は非常に高く評価するが、その内容はオリジナル版を超えているとは言い難いものであった。『メトロポリス』を未見の方は、是非ともオリジナル版の方でドイツ表現主義の優れた感性に触れてみて欲しい。
amazonでこの映画を検索