Shadow of the Vampire (2000)
Director:E・エリアス・マーハイジ
Cast:ジョン・マルコヴィッチ / ウィレム・デフォー / ウド・キアー / ケアリー・エルウェス
Production Company:サターン
あえて説明するまでもないが、ドイツ表現主義時代の傑作『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)を題材とし、オルロック伯爵を演じたマックス・シュレックは本物の吸血鬼だった!という「オマージュ」と言う名を借りた劣悪な「パロディ」作品。随所に『吸血鬼ノスフェラトゥ』の撮影シーンはこうであったろうと思わせるメイキング・シーン的映像が見られ、マニアックな心意気は感じ取られるが、私としてはマックス・シュレックが吸血鬼だったという本作のコンセプトそのものに大きな疑問を感じる。
確かに『吸血鬼ノスフェラトゥ』におけるマックス・シュレックのミステリアスな存在感は突出しているし、大仰で下手な演技を見せるグスタフ・フォン・ワンゲルハイムが、シュレックと演技をしている時だけは真に迫った恐怖の表情を見せていることも事実である。しかし、だからと言ってシュレックが本物の吸血鬼だった、としてしまうのはあまりに安易であるというか、映画オタクが酒のつまみで盛り上がったネタをそのまま映画化してしまったと言う印象を拭えない。
そもそも怪奇幻想映画というものは、如何にこの世にあらざるものを真に迫った説得力を持った映像として観客を騙すか、というファンタジーなのであって、決して単純な写実主義的な表現手段ではないはずである。吸血鬼を吸血鬼役として撮影すれば真に迫った映画となる、という発想はあまりにお粗末であり表現手段としては退行の発想である。
女優の命を吸血鬼に与えてまで作品を完成させようとする、ムルナウ監督の狂気を吸血鬼と重ね合わせようとする脚本も予想の範疇を越えるものではなく、予想通りに展開されるラストも意外さを伴うものではない。真の「オマージュ」という点ではヴェルナー・ヘルツォーク監督の『ノスフェラトゥ』(1979)の足元にも遠く及ばない、パロディ作品。
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