Yearning for Vampire Movies
■ B-PASS別冊Pride Vision 04
■ 2002.06.28発売
■ 特集"吸血鬼的"
■ 発行:株式会社シンコー・ミュージック
■ 定価:1500円
■ 闇の支配者吸血鬼
吸血鬼。闇に乗じ墓場より出で人の生き血を啜る死者。吸血鬼により死に至らしめられし者は、その者もまた不浄なる者として犠牲者を求め彷徨う。そもそも東欧一帯に広がるこの民間信仰は、恐怖の対象としての「死」そのものの具現であると共に、時にまぬけな存在としても語られる日本の「鬼」に近い素朴なるものであった。この民間信仰が、闇に君臨する存在となり我々を魅了して止まぬようになったのは、吸血鬼小説の代名詞とも言えるブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』、そして数多く制作されたその映画化作品に負う所が大きい。勿論ブラム・ストーカー以前にもバイロンの主治医であったジョン・ポリドリによる『吸血鬼』やシェリダン・レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』等、吸血鬼小説は存在していたが、歴史上に実在したワラキアの領主であったブラド・ツェペシュと吸血鬼を結び付けた『吸血鬼ドラキュラ』こそ、吸血鬼小説の最高峰にしてとどめと言える。ドラキュラは闇に佇む貴族的存在として吸血鬼の代名詞となり、今や原作を知らぬ人でもその存在を知っている。いや、原作を読んでおらぬからこそ「ドラキュラ」という固有名詞と「吸血鬼」という普通名詞が同義であるとの誤解が発生しているとも言えようか。
しかし、いつの頃からだろうか。吸血鬼映画は怪奇幻想的な描写を捨て去りキワモノ映画と成り下がった。今やドラキュラは頽廃のダンディズムを身に纏った孤高の闇の存在ではなくなり、永遠の生命を得てまで妻との運命的な再開を待ち侘びる愛の殉教者へと成り果てた。また、ある吸血鬼は二度と見られぬ日の出を嘆き、自らの感傷的な思いに深く沈殿し異常な程雄弁に語り出す始末。その一方で我々を辟易とさせ描かれ続けるゾンビもかくやと思わせるような怪物と化した吸血鬼達の群れ。
言わずもがなではあるが、これらはフランシス・フォード・コッポラ監督の『ドラキュラ』(1992)、トム・クルーズやブラッド・ピットが主演した『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)、ロバート・ロドリゲスとクエンティン・タランティーノ製作総指揮の『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996)といった昨今のメジャー吸血鬼映画に対する嘆きである。確かにコッポラの『ドラキュラ』はかつてない規模で制作された吸血鬼映画であり怪奇映画史に名を残すべき超大作であるし、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』は原作者アン・ライス独自の世界観が鼻につくとは言え丁寧に作り上げられた幻想絵巻的作品であった。