■ 稀代のドラキュラ俳優ベラ・ルゴシ
1882年にハンガリーで生まれ、ハンガリー国立劇場で舞台に立っていたベラ・ルゴシは、1920年にニューヨークに渡るまでの間にいくつかの映画にも出演していたベテラン俳優であった。端正な顔立ちながらも、鬱屈した影のある存在感。眼光鋭く力強い表情。そんなルゴシがドラキュラを演ずることとなるのは必然的であったとも言えるだろう。そして1931年、彼にとって、さらには怪奇映画界にとっても運命的な映画が製作される。それこそが『魔人ドラキュラ』である。
当初ドラキュラ役は、『オペラの怪人』(1925)の怪人エリックや、『真夜中過ぎのロンドン』(1927)で吸血鬼(正確には吸血鬼ではないのではあるが)を演じた「千の顔を持つ男」ことロン・チャニーが演ずる予定であった。しかし、当時ロン・チャニーは喉頭ガンに侵されていたためドラキュラを演ずることあたわず、『カリガリ博士』(1920)で眠り男チェザーレを演じたコンラート・ファイト等、配役は2転3転した後、そして遂に1927年よりブロードウェイの舞台演劇でドラキュラを演じていたベラ・ルゴシに白羽の矢が立ったのであった。