Der Müde Tod (1921)
Director:フリッツ・ラング
Cast:ベルンハルト・ゲッケ / リル・ダゴファー / ワルター・ヤンセン / ルドルフ・クライン=ロッゲ
Production Company:デクラ・フィルム
ムルナウと並んでドイツ表現主義時代を代表する監督の一人である、フリッツ・ラングの初期監督作品。ラングの夫人であるテア・フォン・ハルボウが脚本を担当し、後の傑作『メトロポリス』(1926)にも見られるテーマ「運命に翻弄される人間」がよりアイロニカルに描かれた作品。
若い青年の命を奪った死神は、その恋人の女性に懇願され、消えかかる3つの命の蝋燭のうち1つでも救うことができれば彼の命を助けようと条件を出す。そこで若い女性は失った恋人を取り戻すため、バクダッド、ベネチア、古代中国へと時を超えた旅に向かう。しかし、いずれの命を救うことにも失敗した彼女は、死神から他人の命を奪って来たならば、引き換えに恋人の命を返そうと最後のチャンスを与えられるのであった。
まずは何と言ってもそのタイトルからしてアイロニカルである。人を死に至らしめることが職務の死神が、その仕事に倦み疲れているというのであるから面白い。死神を演ずるベルンハルト・ゲッケは、厳しい表情ながらもどことなく悲しげであり、退屈そうというこの難しい役を非常にうまく演じている。彼のいかつい顔立ちは、それだけで死神という役に説得力を持たせるに十分ではあるが、その表情の中にこの複雑な役どころを交えているのは流石ラング映画の常連といったところである。
そして、古代中国のシーン等に多少エキセントリックな演出はあるものの、天まで届くかと思われる入り口のない壁とそこに吸い込まれていく死者達の亡霊、揺らめく無数の命の蝋燭、と数々の幻想的な映像も素晴らしい。ハリウッドにその名声を奪われる前のドイツ映画の芸術性の高さは今更言うまでもないが、やはりこのような時代を超えた芸術的な映像に触れられること自体が、古典作品を観る喜びの一つと言えよう。作品全体を覆うアイロニカルでニヒリスティックなテーマから一転するラストの展開も美しく、初期作品とは言えラングの才能が既に感じられる名作である。
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