Haxan (1922)
Director:ベンヤミン・クリステンセン
Cast:マレン・ペーダーセン / オスカー・ストリボル / クララ・ポントピダン / エミー・ショーンフェルド
Production Company:スヴェンスク
デンマークで制作された、図版や再現劇から構成された一風変わったサイレント映画。魔術の歴史の授業であるかのように、悪魔や魔女等の豊富な図版を指示棒で示しながら解説を加えるナレーション部分、魔女裁判の過酷な歴史を再現したストーリー部分、魔女裁判で使われた数々の拷問器具の使用方法を実際に映像で解説する部分等から作品は構成され、まさに映像で見る魔術の歴史といった作品。
再現劇の部分では、魔女に仕立てられた老婆が拷問の末に自らを魔女と認め、サバトの様子を語りだす。やがて魔女の嫌疑は一人の若い女性にも飛び火し、彼女は拷問の末火刑に処せられてしまう。ストーリー性のあるいわゆる「映画」として見ることができるのはこの一連の魔女裁判のくだりが主たるものとなるのだが、とにかくこの部分の映像が異色の出来栄えなのである。
異端審問官がアメとムチを駆使して自白に導く誘導尋問の陰湿さ、身体に軟膏を塗り箒に跨って夜空を飛ぶ魔女達のファンタジックな映像、サバトで繰り広げられる悪魔と魔女達の乱痴気騒ぎの異様な雰囲気、これらが実に生き生きと描かれるさまは後年の魔女映画と比較しても全く遜色がない。『妖婆死棺の呪い』(1967)にも通ずる土俗的な香りを漂わせる悪魔達のおどろおどろしさは、稚拙なメイクがかえって効果を挙げており、中世の人々が思い描いていたサバトの風景を見事に再現していると言える。
映画としては一風変わった作品であるが、非常にテンポも良く、何と言っても魔術史研究に対する真面目な姿勢が好ましい。ミシュレやギンズブルグ等の中世魔術史研究に興味のある方は、一見しておくべき作品である。
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