The Man Who Laughs (1928)
Director:パウル・レニ
Cast:コンラート・ファイト / メリー・フィルビン / オルガ・バクラノワ / ジョージ・シーグマン
Production Company:ユニヴァーサル
ユニヴァーサルが『ノートルダムの傴僂男』(1923)に続いてヴィクトル・ユーゴーの「笑う男」を映画化した作品。監督はドイツ表現主義の流れを汲むパウル・レニ、主演にこれまたドイツ表現主義の代表的役者の一人であるコンラート・ファイト、ヒロインには『オペラの怪人』(1925)でクリスチーヌを演じたメリー・フィルビン。何とも豪華な組み合わせに、ドイツ表現主義からハリウッドへと移り行く時代の流れを感じ取ることのできる作品である。
17世紀のイギリス。貴族の謀略によって処刑された領主の幼い息子グウィンプレインは、口を耳まで切り裂かれた上に追放される。吹雪の中彷徨うグウィンプレインは、偶然にも拾い上げた赤ん坊と共にサーカスの一座に身を寄せる。それから20年。「笑う男」としてサーカスの人気者となっていたグウィンプレインであったが、切り裂かれた口によって顔に張り付けられた笑顔とは裏腹に、心に深い傷を負っていた。
本作はそのスタッフやキャストのためか、怪奇映画の流れで紹介されることの多い作品ではあるが、紛うことなき文芸作品の傑作である。確かにジャック・ピアースの手によってメイクを施されたコンラート・ファイトのメイクは奇怪である。後のバットマンのジョーカーへの影響をそこに見て取ることもできる。しかし、本作の主題は切り裂かれたことによって常に笑みを浮かべる口元とは裏腹に、涙を流すグウィンプレインの異形の者の悲しみにあり、彼を迎え入れたサーカス一座の心の優しさにある。
盲目故にグウィンプレインの外見を知らずに恋に落ちたデアが、その外見に気付いた上でもなおグウィンプレインに見えないことで見えるものもあると語るシーンや、グウィンプレインが貴族達によって連れ去られたことをデアに気がつかせぬためにサーカスの一座が騒ぎ立てるシーン等、感動的な演出も素晴らしい。純然たる怪奇映画では怪物は社会から拒絶され駆逐される運命にある中、本作のグウィンプレインはその存在の悲哀を乗り越えアイデンティティの確立を成しえるのである。繊細な心の内を目だけで演じきったコンラート・ファイトの演技力の高さは並大抵のものではない。
なお、サイレントからトーキーへと移り代わりゆく時代の中にあって、本作は"When Love Comes Stealing"というスコアが挿入されており、また一部のシーンに演者の声や効果音も収録されている。好事家達の間でのみ評価されるには、余りに勿体ないサイレント映画時代末期の傑作。
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