Phantom of the Opera (1943)
Director:アーサー・ルービン
Cast:クロード・レインズ / スザンナ・フォスター / ネルソン・エディ / エドガー・バリア
Production Company:ユニヴァーサル
「千の顔を持つ男」ことロン・チャニーが演じたサイレント版『オペラの怪人』(1925)に続く、ガストン・ルルーの同名小説の二度目の映画化作品。前作で作られた壮大なオペラ座のセットがそのまま流用され、テクニカラーによって色彩がついた本作は怪奇映画には珍しく、アカデミー撮影賞と室内装置賞を受賞した大作である。
この『オペラの怪人』(1943)は原作と比較すると物語の脚色の割合が高いのがその特徴である。クロード・レインズ演ずるオペラ座の怪人ことエリックは、明示的には言及されないもののクリスティーナの父親という設定とされ、硫酸を浴び二目と見れぬ顔となる。ところが、このエリックのメイクは極めて控えめであり、怪奇映画屈指の名シーンを生み出したロン・チャニーの凄まじいメイクを経験した後では、我々生粋の怪奇映画愛好家としては物足りなさが残る。
さらに、オペラの歌唱シーンは吹替えとなることが多いこの物語の映画化作品において、本作ではクリスティーナ役のスザンナ・フォスター、アナトール役のネルソン・エディ共に実際に本人が歌っている。これはアンドリュー・ロイド・ウェーバーの『オペラ座の怪人』(2004)が制作されるまでは唯一のものであり、特筆すべき点ではあるのだが、それ故にミュージカル的な雰囲気を生み出し怪奇映画としての色合いを薄める結果となっていることは否めない。
これらの要素に加え、クリスティーナを巡るアナトールとラウルのコミカルな競り合い等、本作がかなり一般大衆受けを狙っていることは明白であり、現在に至るまで幾度となく舞台化され一般に認識されているところの『オペラ座の怪人』に本作は非常に近い位置に存在すると言える。このことによって一般層には最も受け入れやすい『オペラ座の怪人』であるかとは思うが、やはり怪奇映画愛好家としてはロン・チャニーは偉大であったと改めて再認識する作品でもある。
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