Interview with the Vampire (1994)
Director:ニール・ジョーダン
Cast:トム・クルーズ / ブラッド・ピット / キルスティン・ダンスト / アントニオ・バンデラス
Production Company:ゲフィン
反論を恐れずに正直に言ってしまおう。私は原作者のアン・ライスが大嫌いである。現代のやたらと少女漫画趣味的な、言ってしまえば『ポオの一族』的な吸血鬼観を全世界に広め、吸血鬼を同人誌的趣向の色彩一色に染め抜いたその功罪は計り知れないと私は考えている。本作には吸血鬼による独白という着眼点の素晴らしさや、吸血鬼が語るその一大絵巻の壮大さ等、眼を見張るべき点が非常に多い。処女作にして、アン・ライスはそのまごうことなきストーリー・テラーぶりを発揮しているのである。しかし、だからこそライスのように文筆力を持った人間に過剰にロマンティックな吸血鬼を語って欲しくはなかったというのが私の本音である。
従って、この作品は私にとって非常に扱いの難しい作品である。ぽっちゃり顔のブラッド・ピットは吸血鬼のイメージには程遠いし、顔の濃いアントニオ・バンデラスもこれまた吸血鬼という容貌ではない。しかも物語はレスタトとルイの奇妙な同性愛的関係を主軸に、バンデラス演ずるアルマンやら少女クローディアといった、ライス節全開な展開である。この設定は私にとっては苦痛以外の何物でもない。一体これのどこが耽美なのであろうかと、男の私には首をひねらざるを得ない珍妙な趣向が全編に渡って繰り広げられている。
にも関わらず、私がこの映画を評価するのは、ひとえにトム・クルーズ演ずるレスタトの、より正確に言うならばトム・クルーズ本人の格好よさにある。本作品のために頬がこけるまで減量をして役に臨んだということだけあって、トム・クルーズだけが唯一本作品の中で吸血鬼としての風格を備えている。当初キャスティングがトム・クルーズに決定した際、あろうことか原作者のアン・ライス本人がファンを先導して猛反対したという経緯があるが、トム・クルーズのレスタトの何と格好のいいことか!二人の売春婦を芝居がかったやり方で殺すシーンや、焼け落ちるルイの屋敷に飛び込んでくるシーン等は、まさにルゴシやリーに勝るとも劣らない、新たな吸血鬼像を確立したとすら言えよう。
恐らく、世間の大半の人は私のアン・ライスに対する否定的な意見には賛同しないであろうし、その耽美的な映像とストーリーのダイナミズムに惹き込まれるのではあろうが、やはり私はアン・ライスの同人誌的趣向に物凄い抵抗を感じざるを得ない。私にとって本作品はその映像の美しさや、ライス自身の着眼点の素晴らしさ、そしてトム・クルーズの格好よさ、といった数多くの魅力的な点を持っていながらも、アン・ライスの同人誌的趣向という呪縛から逃れえぬところに扱いの難しさがある、非常に困った作品である。
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