The Haunting (1999)
Director:ヤン・デボン
Cast:リーアム・ニーソン / キャサリン・ゼタ・ジョーンズ / オーウェン・ウィルソン / リリ・テイラー
Production Company:ドリームワークス
幽霊屋敷ものの映画というものは、意外とありそうでないものである。数え上げようとしても、傑作とされる『たたり』(1963)、『ヘルハウス』(1973)以外にはそれほど目ぼしいものがないことに驚かされる。これはやはり「幽霊」の扱いの技術的な表現の難しさや、ややもすると単調となりがちな物語の展開の難しさにあるように思われる。
本作はシャーリー・ジャクスンの『山荘綺談』を原作とした、『たたり』に次ぐ2度目の映画化作品である。最新のCGを駆使することで表現が可能となった霊達や、かつてない程に豪華なヒル・ハウス等、90年代ゴシック・リバイバルの末期を飾った意欲作ではあったが、残念ながら『たたり』には遠く及ばない平凡な作品として留まった。
この『ホーンティング』(1999)の失敗要素は数多いが、最大の不満はやはりヒル・ハウスそのものにあると私は思う。凄まじく高い天井、人の背丈の数倍はあろうかという重厚な扉、豪華絢爛な装飾、全てが豪勢でありゴシック・ホラーの舞台としては一見最適であるはずのこの屋敷こそが、最大のマイナス要素である。あまりに豪華であるが故に、ヒル・ハウスはディズニーランドのホーンテッドマンションを連想させ、禍々しさよりも御伽話のような現実感が喪失した世界を作り上げてしまっている。『ヘルハウス』の冒頭で映る屋敷が放つ異様な雰囲気や、『たたり』で描かれた屋敷の重苦しい悪意といったものはそこにはない。これは、幽霊屋敷ものの主役はあくまで屋敷であり、そこに棲む霊達ではないということを完全に履き違えた結果であろう。
そして、脚本のまずさが挙げられる。本作では、原作者シャーリー・ジャクスンのネルの病んだ心理描写を一切排除したため、ネルが精神的に屋敷に飲み込まれていく恐怖は完全に消失し、恐怖の対象は屋敷の主、クレインの霊唯一人へと集中する。結果、『山荘綺談』は単なる「おばけ退治」へとその形を変え、クレインとネルとの一騎打ちという馬鹿げた対決図式へと物語は突き進んでしまい、原作が持っていた重苦しい圧迫感や、やるせなさは微塵もなくなってしまっている。また、ネルがクレインの子孫であった等というに至っては、何故ネルがヒル・ハウスに怯えながらも安堵感を覚えたのかということを、いかに本作の制作者達が理解していなかったかということを如実に示している。
霊魂は見えないからこそ恐ろしい。CGを駆使して鮮明に描かれた霊魂などは、誰も望んではいないのである。本作は怪奇の血が流れていない人間達が、「仕事」として怪奇映画を作った悪しき代表例と言えるだろう。やはり怪奇映画には、作り手達の「愛」が必要なのであると実感できる作品。
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