Das Wachsfigurenkabinett (1924)
Director:パウル・レニ
Cast:ウィルヘルム・ディターレ / エミール・ヤニングス / コンラート・ファイト / ヴェルナー・クラウス
Production Company:ネプチューン・フィルム
何ともおどろおどろしい邦題に、怪奇幻想映画好きならば必ずや目を見張る豪華なキャスティング。見たい、何としてでも見たい。そんな長らくの欲求を経てようやく目にした『裏町の怪老窟』(1924)は、そのいかにも怪奇映画然とした邦題とは裏腹に、実に一風変わったオムニバス形式の物語であった。
若く想像力豊かな詩人が蝋人形館の主人の依頼を受け、暗く狭い蝋人形館へとやってくる。蝋人形館に並ぶは切り裂きジャック、ロシアのイワン皇帝、バクダッドのカリフ、と物言わぬ不気味な人形達。館の主人はこれらの人形達のための物語の創作を詩人に依頼し、若い詩人は筆を片手に奇妙な物語を描き出すのだった。
オムニバス形式の一話目となるバクダッドのカリフを演ずるのは『ファウスト』(1926)のメフィストで知られるエミール・ヤニングス。舞台出身のヤニングスの大仰でコミカルな演技は愛嬌に溢れ、脚本の内容も相俟って実に微笑ましい短編となっている。しかし、この一話目によって本作はその邦題から連想されるようなおどろおどろしい物語ではないことが明確となる。強いて言うなれば、「世にも奇妙な物語」的な作品なのである。続く二話目のロシアのイワン皇帝は『カリガリ博士』(1920)でチェザーレを演じたコンラート・ファイト。鋭い眼光とチェザーレを彷彿とさせる立ち振る舞いに期待は高まるが、これもやはり純然たる怪奇映画とは言い難い。そして、最後の三話目切り裂きジャックはカリガリ博士のヴェルナー・クラウス。切り裂きジャックが不気味に詩人に詰め寄ってくるが、思いもよらぬラストが待ち受ける。
個人的には『裏町の怪老窟』はかなり期待を裏切られた作品であったが、さも恐ろしい怪奇映画に違いないという思い込みさえなければ、実に良く出来た非常に楽しめるオムニバス映画である。物語を執筆する詩人が各エピソード話を繋いでいくというオムニバス映画の定石がこの時代にして既に確立されていることは驚きに値する上、ドイツ表現主義を代表する豪華なキャスティングの持ち味が充分に活かされた脚本の出来は傑出している。各話のエピソードの捻りもよく、パウル・レニの出世作であることを充分に納得させる一風変わった怪奇映画。
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