The Wind (1928)
Director:ヴィクトル・シェストレム
Cast:リリアン・ギッシュ / ラース・ハンソン / モンタギュー・ラヴ / ドロシー・カミング
Production Company:MGM
ドロシー・スカボローの原作を読んだリリアン・ギッシュが、映画化をMGMに強く要望し製作されたサイレント時代の傑作。スウェーデン映画の父と呼ばれるヴィクトル・シェストレム監督の代表作の一つとしても知られている。
風吹き荒ぶ大地、テキサス。従兄弟のビバリーの家を頼って、ヴァージニアから美しい乙女レティがやってくる。ビバリーは彼女を優しく家へ招き入れるものの、妻のコーラは若く美しいレティに嫉妬し彼女に冷たくあたる。コーラのいじめに耐えかねたレティは、彼女に好意を持った隣人のライジと結婚しビバリーの家を出るが、ライジを愛していたわけではないレティの態度に二人の仲は早々に破綻する。やがて、テキサスの過酷な吹き荒ぶ風と舞い上がる砂に、レティの精神は徐々に蝕まれていく・・・。
プロペラ機8台を使って風を巻き起こし砂を吹きつけて撮影されたというだけあって、本作は猛烈な風と砂が全編を覆っている。家の戸を開けるたびに吹き込む凄まじい風と多量の砂。その凄まじさはサイレント映画であるにもかかわらず絶えず吹き荒れる風の音が耳を襲い、口の中にじゃりじゃりと砂の感覚を覚えるほどである。サイレント映画でここまで音を感じさせる作品は他に類を見ない。
加えて本作の演出も傑出している。暴風と重ね合わせられる暴れ馬の合成、ライジと初夜を迎えたレティの二人の心のすれ違いと苛立ちを扉越しに行き来する足元だけで表現する演出、家の随所から吹き込む風と砂に狂気に支配されていくレティの怯えた表情と不安を掻き立てる揺らぐカメラアングル。台詞や音を使うことなく、これほどまでに力強く雄弁に感情を表現するシェストレムの演出手腕は尋常ではない。
自らが愛されていないことを知り絶望するライジはあまりに悲しく、狂気に蝕まれていくレティはあまりに美しい。原作の結末をMGMの意向で改変したラストも、唐突であるがゆえに果たして本当に狂気は去ったのか疑念を抱かせ奇妙な後味を残す結果となっている。サイレント末期の傑作。是非御一見を。
amazonでこの映画を検索