Körkarlen (1921)
Director:ヴィクトル・シェストレム
Cast:ヴィクトル・シェストレム / ヒルダ・ボルグストレム / トーレ・スヴェンボルグ / アストリッド・ホルム
Production Company:スヴェンスク・フィルムインダストリ
スウェーデン映画の父、ヴィクトル・シェストレムのスウェーデン時代の監督作品にして、スウェーデン映画史に名を残す重要作品の一つ。『ニルスのふしぎな旅』の著者でもあり、女性初、スウェーデン人初のノーベル文学賞受賞者であるセルマ・ラーゲルレーヴの『幻の馬車』を原作としている。
結核で病床に伏している救世軍のシスター、エディットは自らの死期が近いことを悟り、酒で身を持ち崩し破滅的な生活を送っているデヴィッドを呼んで来て欲しいと頼み込む。デヴィッドは大晦日の夜であるにもかかわらず墓場で仲間達と酒盛りをしていた。機嫌がよくなった彼は大晦日の深夜十二時に死んだ者は、次の一年間死神の下僕として死者の霊魂を運ぶ馬車の御者となるという噂話を語る。やがて酒が進み些細なことから喧嘩となったデヴィッドは、はずみで命を落としてしまう。そして彼の元へ、幻の馬車がやってくる・・・。
二重露光を駆使した、幻の馬車とその御者の幻想的でこの世ならざるものの佇まいがとにかく素晴らしく、私のような人間は一発でノックアウトされてしまう。幻の馬車が海を横切り進むさまや、御者が建物の壁や扉をすりぬけるさまは、同時代のドイツ表現主義とはまた趣を異にした怪奇幻想風味に溢れている。
本作は現在と過去や未来がフラッシュバックされる、複雑な構成で5幕からなる107分の長尺サイレント映画である。にもかからず、観る者を混乱させることなく物語を展開するシェストレムの脚本、演出は素晴らしい。また、観る者の視線に合わせ頻繁に構図を切り替える丁寧な編集は、固定カメラによる撮影であることを忘れさせるほどである。イングマール・ベルイマンら後続の映画監督達にも大きな影響を与えた、映画創成期の傑作。必見。
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