Laugh, Clown, Laugh (1928)
Director:ハーバート・ブレノン
Cast:ロン・チャニー / ロレッタ・ヤング / ニルス・アスター / バーナード・シーゲル
Production Company:MGM
名門バリモア一家の長男であるライオネル・バリモアが1923年にブロードウェイで演じていた同名戯曲を、「千の顔を持つ男」ことロン・チャニーが演じた映画化作品。ロン・チャニーが主演している名作であるため本サイトでも取り上げるが、あくまで本作は怪奇映画ではなく純粋な悲恋物語である。
旅回りの道化師ティトは、ある日川辺に捨てられていた幼い女の子を拾う。ティトはその子を育てることに決め、兄であり道化の相方でもあるシモンの名を取りシモネッタと名づけることにする。やがて時は流れ、美しく成長したシモネッタは兄弟と共にステージにあがり、ティト達はローマ一の人気者となっていた。しかしティトはシモネッタのことを娘としてではなく、一人の女性として愛してしまい心を病んでいく。一方、そんなティトの気を知らぬシモネッタは、裕福なルイージ伯爵と恋に落ちていくのであった。
ロン・チャニーと言えば『ノートルダムの傴僂男』(1924)のカジモドや、『オペラの怪人』(1925)のエリック等、自ら考案し施す凄まじい特殊メイクで知られている。それらと比べると、本作のティトはただの道化であることに加えて素顔でのシーンも多く、チャニーにしては平凡と映るかもしれない。だが、いや、だからこそ、本作はチャニーの役者としての底力がよく分かる作品なのである。おどけた仕草で顔は笑いながらも、心は泣いているティトの複雑な心情を表情と仕草で雄弁に表現するチャニーは、彼が奇抜なメイクに頼っただけの怪奇俳優ではないことを実感させる。特に、シモネッタがルイージの愛を受け入れたことを知り、打ちひしがれながらもカーテンコールへと向かう彼の背中には涙を禁じ得ない。
一方、ヒロインのシモネッタを演ずるロレッタ・ヤングは、何と当時14歳。チャニーの演技にひけをとらぬ堂々の存在感と演技力は、後にアカデミー主演女優賞を受賞する彼女の才能の片鱗をうかがわせる。彼女が美しく無邪気に微笑めば微笑むほど、道化師チャニーの心は蝕まれ闇は深くなる。そう、本作は怪奇映画的な特殊メイクはないものの、『ノートルダムの傴僂男』や『オペラの怪人』同様、報われぬ愛に苦しむ孤独な者の物語なのである。だからこそ本作は我がサイトで取り上げる意義がある。必見。
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