■ ベラ・ルゴシの没落
『魔人ドラキュラ』から4年後、トッド・ブラウニングは『真夜中過ぎのロンドン』を自ら『古城の妖鬼』(1935)としてリメイクすることとなる。このリメイク作品でチャニーが演じた吸血鬼の役はベラ・ルゴシによって演じられ、ルゴシは再びドラキュラを思わせるような、襟の立った長いマントに黒の正装といった出で立ちでモーラ伯爵に扮した。『魔人ドラキュラ』で退屈極まりない演出を見せたブラウニングも本作ではその手腕をやや取り戻し、『古城の妖鬼』は良質な怪奇映画としての雰囲気を漂わせ、『魔人ドラキュラ』以上の怪奇幻想趣味を掻き立てる作品として完成した。残念なことにルゴシ演ずるモーラ伯爵はラストのたった一言しか発さず、僅かの出演と留まったが、ドラキュラを彷彿とさせるその圧倒的な存在感は、やはりルゴシこそがドラキュラであることを我々に再認識させるには充分な説得力を放っている。しかしそれゆえに、モーラ伯爵を演じたことでルゴシはドラキュラ、もしくは吸血鬼という固定イメージを払拭することができずにいることを証明してしまったことにもなったのである。
やがて1940年代に入ると、フランケンシュタインの怪物を演じたボリス・カーロフが役者として大成していく一方でルゴシは低予算な怪奇映画の常連となり、借金とモルヒネ中毒に陥ってゆく。そもそも二枚目のシェイクスピア俳優であり、様々な役柄をこなすことのできた実力を持ったルゴシにとって、型にはまった役ばかりを演じ、二流の怪奇俳優としての地位に甘んじることは屈辱極まりないことであったのである。