La Chute de la Maison Usher (1928)
Director:ジャン・エプスタイン
Cast:シャルル・ラミー / ジャン・ドビュクール / マルグリート・ガンス / ピエール・オットー
Production Company:ジャン・エプスタイン・フィルム
サイレント映画末期にフランスで制作された怪奇幻想映画の傑作。エドガー・アラン・ポオの「アッシャー家の崩壊」を主体に「楕円形の肖像」「リジイア」を交え、幻想的で詩的な映像が繰り広げられる。幻想的な映像の怪奇映画と言うと『ヴァンパイア』(1932)が連想されるが、『ヴァンパイア』が悪夢的なイメージを積み重ねた結果、物語が曖昧模糊としてしまっているのに対して、『アッシャー家の末裔』(1928)は繊細で不吉なイメージを多用していながらも物語はポオの原作に比較的忠実に進められる。
妖気立ち込める沼地、蔦が蔓延る古い館、妖しくゆらぐカーテン、空虚に時を刻む時計の振り子。全てが幽玄的で不吉な雰囲気を漂わせ、ポオの世界観を見事に表現している。これぞ怪奇と幻想!詩的で美しい映像の中、佇むアッシャー家の人々。モノクロの映像も相俟って、まるで夢の中を漂っているかのような、心地よい悪夢の世界を堪能することができる。
しかし、これら美しい映像は風景描写に限定した話であり、アッシャー家当主のロデリックの目が何故か終始キラキラと輝いているという謎の演出がいまいちしっくりこない点と、ロデリックの妻マドリーヌを演じるマルグリート・ガンスが個人的にはどうひいき目に見ても美人とは程遠い容姿としか思えない点が唯一の欠点として存在する。また、ラストの展開が原作とは正反対となっていることも驚きを禁じえない。
それでも、美しく幻想的な映像は充分に素晴らしく、ポオを原作とする数多の映画化作品の中で最も怪奇幻想味に溢れた傑作である。比較的短い作品であることも手伝って、ミュージック・クリップのように思わず何度も繰り返し再生をしたくなる一品。
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