Dracula (1931)
Director:トッド・ブラウニング
Cast:ベラ・ルゴシ / エドワード・ヴァン・スローン / ドワイト・フライ / デビッド・マナーズ
Production Company:ユニヴァーサル
私が最も愛する怪奇映画の一つであり、『フランケンシュタイン』(1931)と共にユニヴァーサル・ホラーを代表する有名な古典的怪奇映画。吸血鬼映画史を語る上で必ず言及される代表的作品であり、この映画でドラキュラを演じたベラ・ルゴシは、今日に至るまでドラキュラ俳優の代名詞としてクリストファー・リーと人気を二分する怪奇幻想映画界のカリスマ的存在となっている。
この『魔人ドラキュラ』の魅力は、やはり何と言ってもドラキュラ伯爵を演じるベラ・ルゴシにあると言えよう。彼はハンガリー出身の役者であり、強烈な中央ヨーロッパ訛りが晩年まで抜けずに二流の怪奇俳優として悲壮な最期を遂げたのではあるが、ことドラキュラを演じる上では、この訛りがいかにも不気味で雰囲気を盛りたてているのである。彼の黒の夜会服に黒のケープという出で立ちは以後ドラキュラの正装として定着しルゴシは以後この型にはまった吸血鬼的な役柄しか回してもらえなくなるが、それもまたこの映画の持つ強いインパクト故であろう。
そして、ドラキュラ伯爵の古城のセットがこれまたすさまじく、荒れ放題に荒れ、蜘蛛の巣が張り巡らされ、そこかしこをネズミ達が走り回るドラキュラ城大ホールのセットの豪華さといったらない。その大階段を蝋燭を手にしたルゴシがゆっくりと降りてきて"I am Dracula"と喋るシーンや、ドラキュラの妻達がレンフィールドにじわじわと擦り寄るシーンなど、もう何度見てもイッてしまいそうになる程の最高の怪奇的瞬間である。
ところが、ところが、である。この映画はこれらの素晴らしい数々の点を覆い尽くす程テンポの悪い映画なのである。もとは当時ブロードウェイで好評だった演劇を役者もほぼ同じままで映画化した為か、非常に演劇的な演出が強く、特に中盤以降は殆ど冗長であるとさえ言えるカルト性の高い映画なのである。私の様に古城のセットとルゴシだけでイッてしまえる怪奇の血が濃い人間はともかくとして、一般的には「古臭い」の一言で片づけられてしまいかねない程のものである。
しかし、「古臭い」の一言で片づけてしまうにはあまりに惜しい点が多々あるし、私はそれらの欠点を含めてもなお愛してやまない傑作であると思う。映画としては欠陥のある作品ではあるが、非常に怪奇幻想趣味をくすぐる映画であると言える、吸血鬼映画の古典。是非御一見を。
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