The Ghoul (1933)
Director:T・ヘイズ・ハンター
Cast:ボリス・カーロフ / セドリック・ハードウィック / アーネスト・セシガー / ドロシー・ハイソン
Production Company:ゴーモン・ブリティッシュ・ピクチャー
ボリス・カーロフが祖国であるイギリスに渡って演じた、『ミイラ再生』(1932)に続いてエジプトの秘術をテーマとした英国産の怪奇映画。ただし、厳密には本作『月光石』(1933)は"The Ghoul"と言う原題が示す通り、ミイラ男ものではなく甦る死者の恐怖を描いた作品である。
考古学者のモアラント教授は、エジプトの不死を得る秘術である宝石「月光石」を手にこの世を去った。この「月光石」を盗む者あらば、満月の夜復讐に甦ると言い残して。しかし、教授の下僕であったレイングは埋葬の際に「月光石」を盗み出してしまう。やがてモアラント教授の館には、遺産相続人であったラルフとベティー、「月光石」を取り戻さんとするアラビア人や、果ては高価な宝石である「月光石」を盗もうとする輩達が集まってくる。そして満月の夜、モアラント教授は復讐のため甦るのであった。
『ミイラ再生』で復活した際のアーダス・ベイをも上回る、無数の皺を施されたカーロフのメイクがおどろおどろしく、いかにも怪奇映画的なムードを高めることに成功している。ユニヴァーサルとはやや趣を異にするこの緻密なメイクは、これだけでも一見の価値があると言えるだろう。また、甦ったカーロフが自らの胸を切り裂くという残酷描写があることも、この時代の作品にしては非常に珍しい。
とは言うものの、作品全体として観ると本作はやや散漫な印象を免れない。と言うのも、月光石を狙う登場人物が多すぎるのである。そのため、肝心の甦ったカーロフは次々と人の手を移り渡る「月光石」に振り回されてしまう結果となり、いまいち生かし切れていない。これはメイクが秀逸なだけに、何とも惜しまれてならない点である。ユニヴァーサルやMGMといったハリウッドの怪奇映画が興隆を極めていた1930年代に、一矢報いんと対抗したイギリス怪奇映画の佳作。
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