Les yeux sans visage (1959)
Director:ジョルジュ・フランジュ
Cast:ピエール・ブラッスール / アリダ・ヴァリ / エディット・スコブ / ジュリエット・メニエル
Production Company:ジュールズ・ボルコン
19世紀末頃にフランスで流行した、グラン・ギニョールという見世物小屋的残酷劇の要素を多分に含んでいるにも関わらず、美しく物悲しい映像美で見る者を惹きつける、マッド・サイエンティストものの初期の傑作。
植皮術の世界的権威ジュヌシエ教授は、交通事故で顔に大火傷を負った娘クリスチアヌと共に郊外の屋敷でひっそりと暮らしていた。ジュヌシエ教授は、クリスチアヌの怪我を治すため、彼女と同い年の娘を誘拐しその顔の皮膚を移植する。クリスチアヌは美しい顔を取り戻し、手術は成功したかに見えたが、やがて移植された皮膚が壊死してしまう。そして教授は新たな犠牲者へと手を伸ばしてゆくのであった。
今となっては「ありがち」なストーリーではあるが、本作品はこの手のマッド・サイエンティストもののはしりである。しかし、本作は顔の皮膚を移植する際のシーン等、相当にグロテスクでショッキングなシーンが描かれるグラン・ギニョールであるにも関わらず、上品で美しい作品なのである。モノクロの映像も相俟って、クリスチアヌを演ずるエディット・スコプの透き通るような可憐さや、その仮面の下から覗く物悲しい眼差しは強く観る者を引きつける。そして、何故か見終わった時には、恐怖感よりも深い悲しみに溢れているのであるから何とも不思議な作品である。
本作品と同様のテーマを扱ったピーター・カッシング主演の『狂ったメス』(1967)では、カラー作品であることもあって、本作品のような上品さはなく、完全に怪奇映画然としていることも考えると、本作品の不可思議な魅力はやはり際立っていると言わざるをえない。個人的にフランス映画は気取った雰囲気が多いため好みではないものが多いが、私が傑作と考える数少ないフランス映画の良質な怪奇映画である。
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