The Innocents (1961)
Director:ジャック・クレイトン
Cast:デボラ・カー / マーティン・スティーブンス / パメラ・フランクリン / マイケル・レッドグレーヴ
Production Company:アキレス
良質のワインのごとく、見終わった後にじわじわと押し寄せてくる余韻を愉しみながら「怪奇映画たるもの、かくあるべき!」と感心させられることしきりな数少ない傑作の一つ。ヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」を原作とし、隠喩に満ちた演出と映像で丁寧に織り込まれた恐怖感は、『たたり』(1963)に似た質感を放っている。
マイルスとフローラの幼い兄弟の家庭教師としてミス・ギデンスが赴任する。広大な屋敷で無邪気な子供達との平穏な生活が続くと思われたのもつかの間、やがて彼女は見知らぬ男の影に怯えるようになる。その男とは、既に死亡したはずの執事であった。執事と、執事の後を追って自殺した前任の家庭教師の霊を幼いマイルスとフローラの中に感じ取った彼女は、二人を霊から救おうとするのであるが・・・。
果たして霊は存在したのか、全てはギデンスの妄想か。巧みに計算された演出は、観る者をじとっとした恐怖の中に置き去りにする。悪意に満ちたものと思えば思えなくもない子供達の無邪気な笑い声。淫らな感情を想起させる不必要に長いと思えば思えなくもない就寝間際のキス。確かに、子供達には霊が取り憑いているようにも思われる。しかし、その一方で徐々にヒステリックなものとなっていくギデンスの反応とその表情に、観る者の印象は混乱させられていく。その何とも絶妙な演出は、絶品の一言につきる。
怪物や明示的な霊現象が描かれるわけではないため、ハリウッド映画的な明快な展開を期待する方には不向きであろうが、古典怪奇小説の愛好家ならば間違いなく気に入るであろう傑作である。是非ともこの背筋を寒からしめる感覚を味わって頂きたいと思う。
なお、マイルスを演ずるマーティン・スティーブンスは『光る眼』(1960)の天才子役であり、妹のフローラを演ずるパメラ・フランクリンはやがて『ヘルハウス』(1973)で女性霊媒師を演ずることとなる。そして、本作の印象的な撮影は後にブリティッシュ・ホラーを数多く監督したことで我々には馴染みの深いフレディ・フランシスである。
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