Frankenstein must be destroyed (1969)
Director:テレンス・フィッシャー
Cast:ピーター・カッシング / ヴェロニカ・カールソン / サイモン・ウォード / フレディー・ジョーンズ
Production Company:ハマー
ハマー・フィルムが制作したフランケンシュタイン・シリーズ第5弾。今回のフランケンシュタイン男爵は脳移植の実験に取り組んでいるため、残念ながら怪物は登場しない。そのため初作のような怪物を期待するとがっかりするが、男爵その人自身を恐怖の主軸に据えたハマーのフランケンシュタイン・シリーズらしく、サスペンス色の強い作品である。
脳移植の手術に取り組むフランケンシュタイン男爵は、脳移植実験に成功したブラント博士を訪れる。しかし、実験の非道徳性に悩むブラント博士は精神を崩し精神病院に収容されていた。何としてでも彼の研究成果を得んと欲するフランケンシュタインは、病院の薬を横流ししていた若き医師カールとその許婚アンナを脅迫し、彼らと共にブラントン博士を精神病院より連れ出しその秘密を得ようとするのであった。
初作『フランケンシュタインの逆襲』(1957)以降、性格がやや穏やかとなっていたフランケンシュタイン男爵であるが、本作の男爵はかなり非人道的な人物として描かれている。恐らくは怪物が出ない分、恐怖の対象としての男爵が必要であったということなのであろうが、カールを脅迫しあまつさえアンナをレイプまでする彼の姿は、シリーズ中最も犯罪者的な印象を強く与える。
この問題のレイプシーンは撮影スタッフの間でも物議を醸し出したものであり、本作品を撮影し終えた後でハマー首脳陣の要求により急遽追加されたものである。そのため脚本の前後関係に違和感や唐突さが生まれてしまっている上、何よりもそのシーンに必要性が感じられない。このシーンが存在することによって、フランケンシュタイン男爵のヒロイズムは薄れ、ただのマッド・サイエンティストに成り果てていると落胆してしまうのは私だけではないだろう。
しかし男爵が非人道的であるが故に、脳移植実験の被験者となってしまうブラント博士の悲哀性が際立っていることも事実である。見知らぬ体へ脳移植され、姿を見せぬよう衝立越しに妻へと語りかける彼の気遣いと悲しみ、その事情を知ってもなお彼を見て失神する妻。その悲劇的な顛末は私のようにカッシングの肩を持つ人間でも、思わずブラント博士へと感情移入してしまうほどである。シリーズ中、最も男爵が犯罪者的であるが、そういった悪人を演じても十分に説得力を持たせることのできるカッシングの演技が光る作品。
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