Dracula (1974)
Director:ダン・カーティス
Cast:ジャック・パランス / サイモン・ウォード / ナイジェル・ダヴェンポート / パメラ・ブラウン
Production Company:ラトグレン
ゴシック・ソープ・オペラ「ダーク・シャドウズ」の監督で知られるダン・カーティスがTV用映画として制作した正統派ドラキュラ映画。ドラキュラを演ずるは『シェーン』(1953)の悪役、ジャック・パランスである。
本作は、コッポラ監督の『ドラキュラ』(1992)が制作されるまでは最も原作に近いドラキュラ映画の一つであり、かつ、ドラキュラが生前の妻の面影をルーシーに重ね合わせるという演出をコッポラ版に先駆け行っている点において、ドラキュラ映画史において特筆に値する。また、意図的にハマーの傑作『吸血鬼ドラキュラ』(1958)に寄せたと思われる演出も多々見受けられ、マニアならばニヤリとする構図やシークエンスに出会うこと請け合い。
しかし、それでも私はこの映画が退屈である。まず第一にドラキュラを演ずるジャック・パランスが個人的に好みではなく、あまり魅力を感じられない。パランスは第二次世界大戦で従軍中に顔面に火傷を負ってしまい、整形手術の後遺症もあって悪役を多く演じた役者である。彼の強面でいかつい顔立ちは、『シェーン』の殺し屋のような役回りでは非常に効果的だが、ことドラキュラを演ずるにあたってはルゴシやリーのような風格がイマイチ感じられない。
加えて、コッポラ版にも引き継がれた「亡き妻の面影を探し求める者」としてのドラキュラ像が私は好きではない。原作にはないこの設定が加えられたことで、パランスのドラキュラは折角の荒々しい顔立ちを生かし切ることなく、自らの感情を押し殺したような、言ってしまえばロン・チャニー・Jr.が『夜の悪魔』(1943)で演じたドラキュラのような、苦悩の表情を浮かべることになる。これは何とも勿体ないように思われてならない。TV用映画の控えめな演出であることも相まって、結果として本作はやや平坦な仕上がりとなっていることは否めない。
なお、本作は当初1973年10月12日にCBSネットワークで放送される予定であったが、当時のウォーターゲート事件をめぐり副大統領のスピロ・アグニューが辞任し、演説放送をニクソン大統領が行ったため、1974年に放送延期されたという経緯がある。
amazonでこの映画を検索