Gothic (1986)
Director:ケン・ラッセル
Cast:ガブリエル・バーン / ジュリアン・サンズ / ナターシャ・リチャードソン / ティモシー・スポール
Production Company:ヴァージン・ビジョン
怪奇小説好きならば知らぬ者はいないであろう、メアリー・シェリーが「フランケンシュタイン」を、ジョン・ポリドーリが「吸血鬼」を執筆することとなった、バイロン卿のディオダティ荘の怪奇談義が開かれた一夜を描く作品。
『ゴシック』(1986)というズバリそのもののタイトル、ヨハン・ハインリヒ・フュースリの「夢魔」を再現したワンシーン、そしてディオダディ荘の怪奇談義とくれば、怪奇幻想、ゴシックを嗜好する者ならば即飛びつきたくなる要素のオンパレード。が、監督は一癖も二癖もあるケン・ラッセル、そうは問屋が卸さない。本作は現実と悪夢が錯綜する混沌とした構成となっており、観る者を選ぶかなりアクの強い作品となっている。
そもそもディオダティ荘の怪奇談義自体が、放蕩な生活でスキャンダルまみれだったバイロン卿と、パーシー・シェリーとメアリー(この時点ではシェリーの愛人)、メアリーの妹でバイロンの愛人であったクレア、そしてバイロンの主治医で同性愛のパートナーでもあったポリドーリの5人が阿片をやりながら放蕩と恐怖の一夜を過ごしたという出来事である。それをケン・ラッセルが映画化しているのだからまともであるわけがない。
実在の人物でありながらも、その言動が小説の登場人物であるかのような者達が阿片に酔い悪夢のイメージを羽ばたかせる様を、真正面から毒々しく禍々しくエキセントリックに描き切る本作は伝記映画でありながらも極めて怪奇映画的である。一見、論理的な起承転結を無視したかのような脚本ではあるものの、登場人物の設定やエピソード、メアリーが幻視する未来の出来事等は史実に忠実であり、実は丁寧に計算した上での混沌であることが伺える。伝記映画やドキュメンタリーを得意とした、いかにもケン・ラッセルらしい怪作。
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