I, Madman (1989)
Director:ティボー・タカスク
Cast:ジェニー・ライト / クレイトン・ローナー / ランドール・ウィリアム・クック / ステファニー・ホッジ
Production Company:トランス・ワールド・エンターテイメント
古書店に勤めるバージニアは、店内で手にした怪奇小説を読み耽るうちに小説の中で描かれている猟奇事件が身の回りでも同様に起こっていることに気が付く。怪奇小説の作者、マルコム・ブランドは小説の内容の通り、自らの醜い容姿を変えるため頭髪や耳、鼻、口を削ぎ落とし、犠牲者のそれを自らに移植していたのであった。しかし、警察に勤めるバージニアの恋人は彼女の言動を妄想として取り合わない。やがてその魔手はバージニアに忍び寄っていく・・・。
まるでウィアードテイルズから抜け出したかのような、古色蒼然としたストーリー。途中で期待を裏切ることなく最後まで丁寧に作り上げられた脚本と演出。CGよりも数倍も心ときめかすランドール・ウィリアム・クックによるストップモーション。と、本作品はスプラッター映画の嵐が吹き荒れた80年代の作品としては、珍しく上品で古典的に作り上げられている良質のゴシック・ホラーである。
サスペンス映画とホラー映画との垣根が曖昧となった昨今ではこの類のテーマは、ややもすると怪奇小説マニアの模倣犯罪というありがちな展開とされてしまうのであるが、本作ではサスペンスに走ることなく純粋に怪奇映画としてこのテーマを最後まで描ききっており、怪奇幻想の愛好者達を大いに嬉々とさせた。本作品は1990年の第18回アボリアッツ・ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞したことからも伺える通り、やはり怪奇映画にはこのような真摯な嗜好性こそが重要なのである。
現代を舞台としていながら真っ向から古典的なテーマを扱い、いかにも怪奇映画然とした仕上がりを見せる本作品は、ハマーやアミカスといったブリティッシュ・ホラーの古き良き怪奇映画を彷彿とさせる佳作である。流石に80年代スプラッターブームの影響か多少のドギツイ場面はあるものの、全体的に手堅く纏められており非常に好感の持てるホラー映画であると言えよう。
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