Only Lovers Left Alive (2013)
Director:ジム・ジャームッシュ
Cast:ティルダ・スウィントン / トム・ヒドルストン / ミア・ワシコウスカ / ジョン・ハート
Production Company:レコーデッド・ピクチャー・カンパニー
独特の間と癖の強い作家性で根強い人気を誇る監督、ジム・ジャームッシュが吸血鬼の恋人達を描いた一風変わった吸血鬼映画。吸血鬼を演ずるはティルダ・スウィントンとトム・ヒドルストン。美しい吸血鬼の恋人達と言えば『ハンガー』(1983)のカトリーヌ・ドヌーブとデビッド・ボウイを頂点とするが、本作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013)のティルダ・スウィントンが放つ人外の存在感もまた素晴らしい。
永遠の時を過ごす内向的な吸血鬼アダムは、卓越した音楽の才能で姿を現さぬロック・ミュージシャンとしてカリスマ的な人気を得ながらも、デトロイトで陰鬱な隠遁生活を送っていた。一方モロッコに住むアダムの妻イヴは、そんなアダムの様子を気にし彼の家へとやってくる。何世紀にも渡って共に生きてきた二人は、再び同じ屋根の下で愛に満ちた暮らしを始めるが、イヴの妹の自由奔放なエヴァが押しかけてきたことで二人の生活は掻き乱されはじめる。
所謂エンターテイメントとしての吸血鬼映画を期待すると、本作は酷く退屈に感じられるだろう。アダムは終始憂鬱な表情でボソボソとしか話さないし、物語として大きな起伏があるわけでもない。ジム・ジャームッシュ特有の長回しの撮影と間も、スピード感溢れる映画の演出に慣れた方には間延びした印象を与えかねない。しかし、逆説的に本作の魅力はそこにある。淡々と流れる美しくも倦怠感溢れる映像は、一度見始めたら目を離せなくなるほどの魔力に満ちている。
ジム・ジャームッシュ特有のとぼけたユーモア感覚は本作でも健在で、アダムが憂鬱なのはバイロンやシェリーらと交流したからだ、とイヴに言わせてみたり、アダムの家の壁にシェイクスピアやポオの肖像画がしれっと飾られていたり、イヴはiPhoneを使っているのにアダムはPCからわざわざブラウン管テレビにモニタ出力していたりと、随所に一風変わった演出が見られる。また、『ハンガー』よろしく二人がライブハウスへと出向くシーンでは、トム・ヒドルストンがゴスの帝王、『Vision Thing』の頃のアンドリュー・エルドリッチを思わせるのもニヤリとさせられる。
少女のようで老婆のような、ティルダ・スウィントンのこの世ならざる者のオーラ。長髪の奥から憂いに満ちた瞳を覗かせるトム・ヒドルストンの佇まい。そんな美しい二人の間に流れる強固な信頼関係と、お互いを思いやる優しさと愛情の揺るぎなさ。吸血鬼の恋人達のゆるやかで穏やかな日常が、とても魅力的に感じられる。非常に良い映画である。
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