November (2017)
Director:ライナル・サルネット
Cast:レア・レスト / ヨルゲン・リーク / イエッテ・ローナ・エルマニス / ディーター・ラーザー
Production Company:ホームレス・ボブ
『ノベンバー』(2017)は奇怪で美しい。全編に渡って白飛びと黒潰れと言っても差し支えのないほどの極端にコントラストの強いモノクロで描かれるは本作は、まるで自身が繊細な線描画の中に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚えるほど。陰影の強いモノクロのダーク・ファンタジーと言うと『ウィッチ』(2015)を連想する方も多いことだろうが、『ノベンバー』はより繊細で儚い。
貧しい農民たちが暮らすエストニアのとある寒村。年寄りばかりの中にあって若く美しい娘リーナは、村の青年ハンスに恋心を抱いていた。しかし、ハンスはドイツ人の男爵の娘に惚れており、リーナに見向きもしない。リーナは彼を振り向かせるために村の魔女に相談をするが、魔女は鉄の矢をリーナに渡し、それを男爵の娘の頭に突き刺せとアドバイスをするのであった。
本作はエストニアの作家であるアンドルス・キヴィラフクの小説を原作としており、エストニアのフォークロアがその根底に色濃く刻まれている。そのため、「クラット」と呼ばれる労働に使役される使い魔の存在や、『ファウスト』(1926)でも見られた十字路で悪魔を呼び出し血の契約を結ぶ伝承、万聖節に先祖の霊を迎え入れる風習等に対する事前知識がなくては、少々面食らう物語となっている。加えて、意識的に説明を省いたと思われる脚本や、場面の転換が多用されるため、初見では物語の把握に精一杯となるかもしれない。しかし、それが逆説的に奇妙な世界への好奇心を強く刺激することも確かである。
背を曲げなくては歩けぬほどに奇妙に天井が低く、暗く狭い農家が描かれる一方で、天井が高く明るくシンメトリーな男爵の屋敷の強烈な対比。日々の貧しい生活に追われるあまりに他人の資産を醜く奪い合う農民たちの守銭奴的な醜さの一方で、純潔な愛を求めるリーナの美しさの強烈な対比。これらの要素を極端な白飛びと黒潰れの美しく繊細な映像で描く本作は、まさに暗黒のおとぎ話だ。幻想的な映像美に是非皆さんも包まれてみて欲しい。必見。
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