Pánico en el Transiberiano (1972)
Director:ユージニオ・マーティン
Cast:クリストファー・リー / ピーター・カッシング / テリー・サバラス / アルベルト・デ・メンドーサ
Production Company:グラナダ
『ホラー・エクスプレス ゾンビ特急"地獄"行』(1972)とは随分とまた大仰な邦題であるが、本作は観て頂ければ納得の、大胆なまでに様々な要素を詰め込んだ、いや、詰め込みすぎた怪作である。
満州で類人猿のミイラを発見したサクストン教授は、本国イギリスへ持ち帰らんとモスクワ行きのシベリア特急に積荷と共に乗り込む。しかし、上海を出発した列車の中で荷物係が変死し、類人猿は箱から姿を消してしまう。サクストン教授は偶然にも乗り合わせた友人のウェルズ医師と共に類人猿の捜索を行い、息を吹き返し人を襲っていた類人猿を退治することに成功。死体を解剖したウェルズ医師は、この類人猿が太古の昔に外宇宙からやってきたエイリアンであったのではないかと推測するが、やがて再び列車内で犠牲者がではじめるのであった。
列車という移動する閉鎖空間で息を吹き返した類人猿が大暴れする『オリエント急行殺人事件』のホラー版かと思いきや、類人猿はあっさりと退治され退場。実は類人猿には外宇宙からのエイリアンが乗り移っており、赤く光る眼を通じて相手の知識や記憶を脳から吸収しては新たな犠牲者へと乗り移るという『遊星からの物体X』(1982)的展開へ。これだけでも十分欲張りな作品であるのに、登場するのは未知の金属体を発明した伯爵とそれを狙う女スパイや、伯爵に同行するラスプーチンを思わせる狂信的な神父。類人猿の脳をいきなり解剖しだすフランケンシュタイン男爵ことピーター・カッシング演ずるウェルズ医師や、事件調査のために乗り込んでくるコサック隊を率いるテリー・サバラス演ずるカザン隊長。とまあ、登場人物達も何とも異常に濃すぎてお腹いっぱい。そして最後は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)的展開でゾンビ登場と、ここまで様々な要素を詰め込んだ映画も珍しい。
通常ここまで要素を詰め込んだ作品は収拾がつかなくなり破綻するわけだが、本作の恐ろしいところは脚本と演出がしっかりとしており、これらの要素がテンポよく登場しては消えるため、思いの外楽しめる点なのである。リーとカッシング、そしてテリー・サバラスという芸達者達が主演していることも、この荒唐無稽な物語に妙な説得力を持たせている。本作が純粋なゾンビ映画か?と問われれば否、ではあるが、一風変わった欲張りゾンビ映画の怪作である。
なお、本作でシベリア特急として登場する列車のミニチュアは、『ニコライとアレクサンドラ』(1971)で使用されたものであり、プロデューサーであるバーナード・ゴードンはそのミニチュアを使ってユージニオ・マーティーン監督、テリー・サバラス主演で『パンチョ・ヴィラ』(1972)を本作の前に製作。『パンチョ・ヴィラ』の列車内の装飾は本作にも流用されている。
amazonでこの映画を検索