Cat People (1942)
Director:ジャック・ターナー
Cast:シモーヌ・シモン / ケント・スミス / トム・コンウェイ / ジェーン・ランドルフ
Production Company:RKO
ユニヴァーサルがフランケンシュタインの怪物をはじめとする怪奇映画を連作していた1940年代、低予算ながらもユニヴァーサルとは明らかに路線の異なった良質の怪奇映画を生み出したのがRKOである。『キング・コング』(1933)で知られるRKOは当時、『市民ケーン』(1941)等の大作により赤字経営となっており、ヴァル・リュートンをプロデューサーに迎え怪奇映画路線で再起を賭けていた。
ヴァル・リュートンの作風は、恐怖の対象を明確に映し出すのではなく、暗示的に描くことで観客の想像力を煽るのが特徴である。これには予算的な問題があったのかもしれないが、影多きモノクロの画面と相俟って、彼の手掛けた作品はいずれも非常に幻想的で上品な怪奇映画と呼ぶに相応しい効果をあげている。
さて、本作『キャット・ピープル』(1942)はそんなRKOヴァル・リュートン作品の第1弾である。自らが猫族の末裔であり、感情の高ぶりにより忌まわしい獣へと変身するのではないかと怯えるイレーナは動物園で出会ったオリバーと恋に落ち、二人は結ばれる。しかし、自らの中に潜む獣の影に怯えるイレーナはオリバーと寝室を共にすることもなく、そんな態度の彼女を理解できないオリバーは会社の同僚アリスと親しくなってゆく。嫉妬と自責、孤独の中で次第に精神的に追い詰められていくイレーナ。やがてアリスの身の回りに不穏な事柄が起こりはじめる・・・。後にナターシャ・キンスキー主演でリメイクされた『キャット・ピープル』(1982)の方が現在では一般的には有名かと思われるが、本作品は性的な描写のない、より品の良い美しい仕上がりとなっている。
イレーナを演ずるシモーヌ・シモンの幼い顔つきの中に時折垣間見られる、猫のような本性、あるいは女性的な本性、はぞくぞくする程魅力的で艶かしく、猫族という設定もあってか独特の魅力を放っている。決して傑作とまでは言うのを躊躇する作品ではあるが、低予算怪奇映画の真骨頂とも言うべき雰囲気を楽しむことの出来る、大人の御伽話である。夜の長い季節にアルコール片手に見たくなる一品。
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