Dr.Jekyll and Sister Hyde (1971)
Director:ロイ・ウォード・ベイカー
Cast:ラルフ・ベイツ / マルティーヌ・ベズウィック / ジェラルド・シム / ルイス・フィアンダー
Production Company:ハマー
女性ホルモンから不老不死の研究をしていたジキル博士が、自らに薬を投薬してみたところ何とビックリ!女性に変身してしまう、というスティーブンスンの『ジキル博士とハイド氏』を余りにも大胆で斬新に脚色したハマーの怪作。
正直に告白すると、私は本作を凄まじい駄作か、コメディ映画の成り損ない程度であろうと考えていた。実際、『ジキル博士はミス・ハイド』(1995)という振り切れたコメディ映画もあるくらいである。いくら怪奇映画のハマーと言えども、その設定は無理がありすぎる。ところが、ところが、観てビックリ。ラルフ・ベイツの骨格とボンドガールとしても活躍したマルティーヌ・ベズウィックの顔の骨格が思いのほか似ており、不思議と違和感がないのである。これはもう、キャスティングの勝利としか言うしかないだろう。
物語はジキルとハイドをベースとしながらも、ホワイトチャペルを舞台とすることで、実際のイギリスの猟奇事件である切り裂きジャックの要素や、『死体解剖記』(1960)同様にバークとヘアを登場させる等して、虚実をうまく織り込み構成されている。そして、本来原作が持っていた同一人格の中に存在する善と悪の分裂という要素は、ジキル博士とハイド嬢のそれぞれの人格による主導権の奪い合いへと変更されており、それもまた演出の一つとして実にうまく機能している。
ただ、ラルフ・ベイツとマルティーヌ・ベズウィックの顔の骨格が似ているということは、マルティーヌ・ベズウィックが余りセクシーには見えないということも同時に意味している。それは、70年代に入ってからハマーが取り入れ出したエロティック路線に則り、ベズウィック嬢の裸体を見せられても余り興味はそそられないという事でもある。しかし、元々怪奇映画におけるエロティック要素に対して否定的である私としては、本作はその突飛な設定の割にはハマーらしい非常に手堅く纏められた作品であると思う。
amazonでこの映画を検索