The Hunchback of Notre Dame (1923)
Director:ウォーレス・ワースリー
Cast:ロン・チャニー / パッツィ・ルース・ミラー / アーネスト・トレンス / ノーマン・ケリー
Production Company:ユニヴァーサル
『レ・ミゼラブル』で知られる文豪ヴィクトル・ユーゴーの『ノートルダム・ド・パリ』の映画化作品。同原作は過去に幾度も映画化され、近年ではディズニーによってアニメ化されたことでも記憶に新しいが、本作は「千の顔を持つ男」ことロン・チャニーがカジモドを演じており、その醜悪なメイクの凄まじさは後にも先にも他に比するものがない。
では本作は醜悪なメイクを見世物とする色物の怪奇映画であるのか、と言われれば否、なのである。ロン・チャニー演ずるカジモドは容姿は醜く挙動は奇怪であれども、心は美しく純粋であることが声を発さぬサイレントのフィルムの端々から雄弁に伝わってくる。全身を使い鐘を鳴らすカジモドの余りに無邪気な仕草、ノートルダムに押し寄せる群衆に対して抵抗を試みるカジモドの必死の表情、エスメラルダに不器用に愛情を伝えようとするその様、チャニーの表現力はサイレント映画であることを忘れさせる程に豊かな感情を表している。
カジモドの内面に対するチャニーのこの深い理解と素晴らしい演技力があるからこそ、本作は単なる怪奇映画としての枠組みに留まることなく、原作の持つ重厚なテーマを表現しえているのである。彼がカジモドを通じて伝えようとしていることは、決して低俗な興味を掻き立てる見世物小屋の余興などではない。
屋外に築かれたノートルダム寺院のセットの壮大さや、ノートルダムに押し寄せるおびただしい群集と騎馬隊との衝突等も後のユニヴァーサル映画と比較にはならぬ程の規模であり、圧倒的な映像スケールを持つ。『ノートルダムの傴僂男』(1924)はサイレント期のユニヴァーサルを代表する傑作であり、ベラ・ルゴシ、ボリス・カーロフと並ぶユニヴァーサルの怪奇俳優ロン・チャニーの生涯を通じての最高傑作である。根源的な差別意識の論議を避け「傴僂」という言葉だけを差別用語として抹殺し、名ばかりの偽善的な平等を得ようとする愚かしい人々こそ、両親が聾唖者であったチャニーが本作品で一体何を伝えようとしていたのかという問題に本気で対峙すべきと私が考える作品である。
amazonでこの映画を検索