The Black Cat (1934)
Director:エドガー・G・ウルマー
Cast:ボリス・カーロフ / ベラ・ルゴシ / デビッド・マナーズ / ジャクリーン・ウェルズ
Production Company:ユニヴァーサル
ベラ・ルゴシとボリス・カーロフが初めて共演した記念すべき作品。不幸に襲われるやさ男と言えばこの人、デビッド・マナーズも名を連ね、初期ユニヴァーサルの俳優陣揃い踏みといった感じであろうか。美術監督あがりのエドガー・G・ウルマーは本作が監督第1作目であり、セットや構図に一風変わった趣向が見られる。
ブダペストへ向かう新婚のアリスン夫婦を乗せた列車のコパートメントに、ワーデガストという戦争からの帰還者が乗り合わせてくる。彼は15年振りに「古き友人」を訪ねるのだと言う。列車を降りバスも共にした3人であったが、豪雨の中運転を誤ったバスは谷間へと転落。アリスン夫妻の妻ジョーンが傷を負ったため、彼らはワーデガストが向かう予定であった「古き友人」であるポールジッグの邸宅へと身を寄せる。しかし、ポールジッグこそは悪魔崇拝の司祭であり、ワーデガストの妻と娘を奪った張本人なのであった。
もはや「原作」と称するポオの「黒猫」の面影は全くなく、ルゴシが黒猫を悪魔の象徴としてグラスを落とすほど過剰に怯える程度の演出にしか用いられていない。まあ、それはそれで割り切ってしまえば良いのであるが、本作はどうにも脚本がいただけない。復讐の念に駆られているはずのルゴシとカーロフの人間関係の描き方が異様に中途半端なのである。妻と娘を奪われたにも関わらず、表面上は腹の探り合いをするかのように穏やかにやりとりをしたり、アリスン夫妻を助けるためにチェスでその勝負を賭けたりと、何とも緊迫感のない展開に、観ている側は混乱させられる。
悲しいことに、本作の最も優れた主役は実はポールジッグの住む邸宅である。美術監督あがりのウルマーらしく、バウハウスの影響が見て取れる近代的でモダンな邸宅のデザインは、現代の視点でも斬新な要素を多分に含んでいる。デジタル時計や自動ドア、機能美を追及したデザインや照明がこの時代の怪奇映画で舞台として描かれるのは非常に珍しい。しかし、記念すべきルゴシとカーロフの初の共演作にも関わらず、物語が残念な出来栄えなのは惜しまれてならない。
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