The Masque of the Red Death (1964)
Director:ロジャー・コーマン
Cast:ヴィンセント・プライス / ヘイゼル・コート / ジェーン・アッシャー / ルアナ・アンダース
Production Company:AIP
AIP/ロジャー・コーマンのポオ・シリーズ第7作目であり、数多くの作品を生み出したロジャー・コーマンの最高傑作として知られる作品。原作は言わずもがなではあるが、ポオの「赤死病の仮面」をベースとして、「跳び蛙」を加えて構成されている。
中世のイタリア。悪魔を崇拝する残虐なプロスペロ公は、自らの領地で赤死病が発生したことを知り、村の美しい娘フランチェスカを連れ去り貴族の仲間達と城に立てこもる。恐るべき感染力で全身から血が流れ出し苦しみ死んでいく村人達を尻目に、プロスペロ公は集まった周辺諸侯達と共に堕落した宴を催し現実から目を背けるばかり。そんな仮面舞踏会の最中、赤いマントを羽織った謎の男が姿を現すのであった。
B級映画の帝王として知られるロジャー・コーマンであるが、本作は史劇『ベケット』(1964)のセットや衣装を流用したため、それまで予算の低さが垣間見られていたシリーズとは異なり豪勢な作品に仕上がっている。しかし、本作がコーマンの最高傑作と言われる所以は、その映像の豪華さにあるわけではない。本作『赤死病の仮面』(1964)は怪奇映画でありがならも単純な善悪の二項対立に留まることなく、「死」をテーマに観念的な深みを持った脚本が、ある種の文芸作品的な香りを漂わせているのである。死を前にした人間の儚さや、信念の揺らぎ、神または悪魔という存在、これらの哲学的とも言えるテーマは、それまで娯楽的な怪奇映画として作られていたポオ・シリーズとは明らかに一線を画している。
赤死病が蔓延したプロスペロ公の城での悪夢的な舞踏や、死神達が集うシーン等は一見滑稽ではあるが、それを滑稽と思わせないのは、やはり真摯に哲学的なテーマと向き合ったが故であろう。純然たる怪奇映画を期待したならば多少の肩透かしを食らうことであろうが、狂気の天才ポオに挑み独自の解釈を加えたコーマンの最高傑作であることは間違いがない。
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