The Old Dark House (1932)
Director:ジェームズ・ホエール
Cast:ボリス・カーロフ / メルヴィン・ダグラス / チャールズ・ロートン / アーネスト・テシガー
Production Company:ユニヴァーサル
ジェームズ・ホエール監督、ボリス・カーロフ主演によるJ・B・プリーストリーの原作にもとづく怪奇映画。『フランケンシュタイン』(1931)の監督・主演のコンビ再び、ということもあって期待は嫌が上にも高まるが、その実、怪奇映画としてはひどく退屈な作品である。
旅行の途中、激しい嵐によって行く手を阻まれ道に迷ったフィリップ一行は、偶然古い屋敷へと辿り着く。しかし、一夜の宿を求めた彼らを出迎えたのは年老いた老婆とその弟、そして醜悪な容姿の物言えぬ執事の奇怪な住人達であった。やがて嵐のために屋敷は明かりを失い、階上へランプを取りに行ったフィリップはそこで100歳を超える老齢の父親に出会う。父親はこの屋敷は呪われており、狂った長男が幽閉されているとフィリップに伝えるのであった。
当然のことながら、我々はボリス・カーロフ演ずる聾唖の執事モーガンにフランケンシュタインの怪物のような存在を期待する。しかし、怪物にみられた存在そのもの悲哀や、物言わぬが故の雄弁な演技はそこにはなく、執事とは名ばかりのただの暴力的な酔っ払いという役どころに失望されられてしまう。加えて狂人の兄もさしたるインパクトはなく、そのヒューマン・ドラマとすら言える展開に大きく期待を裏切られることになるであろう。
それでもなお本作の評価が一部で高いのは、ある種のプロットの基本形のようなものを生み出しているという点と、ジェームズ・ホエールという癖のある監督の強烈な個性が随所に見られるからに他ならない。吹き荒ぶ嵐の中いかにも妖しげな洋館に辿り着く旅の一行、お約束通りに館以上に妖しい住人達、そこで展開されるラヴ・ロマンス、夜明けと共に拍子抜けする程あっさりと解決する物語。いわゆる「オールド・ダーク・ハウスもの」と呼ばれる、後年のホラー映画の基本形がここにある。また、食事のシーンを意識的に醜く長く描いたり、狂人に聖書の引用をさせる等、ホエール一流のブラック・ユーモアや暗喩に満ちた演出も光っている。
とは言うものの、やはり怪奇映画としては非常に物足りない作品であることに変わりはない。『ゴッド・アンド・モンスター』(1998)により国内盤が発売されるまでに至ったことは喜ぶべきことではあるが、ホエールの持つ強い癖を楽しむのはなかなかに難しく、執事モーガンの人格描写も曖昧であり、優れた映画と言うには躊躇いを覚えざるをえない作品である。
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