La Maschera del Demonio (1960)
Director:マリオ・バーヴァ
Cast:バーバラ・スティール / ジョン・リチャードソン / アルトゥーロ・ドミニチ / アンドレア・チェーキ
Production Company:ガラテア
『吸血鬼ドラキュラ』(1958)に対するイタリアからの回答、それこそが本作『血ぬられた墓標』(1960)である。今更私が指摘するまでもなく、ハマー・カラーと呼ばれる独特の色彩で描かれた『吸血鬼ドラキュラ』に対するモノクロの映像。動き回る吸血鬼ドラキュラに対する寝たきりの魔女アーサ。吸血鬼を退治するヴァン・ヘルシング博士に対して吸血鬼化するクルバヤン医師、と全てが逆転の構造を取りながらも本作は『吸血鬼ドラキュラ』に匹敵するだけの魅力を持った、吸血鬼映画屈指の傑作として仕上がっている。
後に独特の色彩が評価されるカメラマン出身のマリオ・バーヴァ監督の映像は、ユニヴァーサルが60年代も健在であったならば必ずやこういった映画を撮影したであろうと思わせるほどに、古典的で美しく、そして適度にショッキングである。冒頭の魔女アーサに打ち込まれる「仮面」のグロテスクでありながらも美しい演出に始まり、墓場より甦る吸血鬼のおどろおどろしさ、仮面を剥がれ復活する魔女アーサの気味悪さ等、その怪奇要素満載の映像は観る者を魅了して止まない。
そして何よりも魔女アーサとその犠牲となるカーティアの二役を演ずるバーバラ・スティールのデカダンな美しさ。瞳が異常に大きく妙に均整が崩れているようで整っているバーバラ・スティールの出演作品は数有れど、本作までにスティールの魅力が引き出されている作品はないであろう。頽廃的な雰囲気に包まれた物憂げなその表情は、魔女アーサに蝕まれていくカーティアの運命をより際立たせ、作品全体の魅力を一層引き立てるのに貢献している。
ゴーゴリの『妖女』を原作とするとうたいながらも事実上オリジナルの脚本であることや、一般層には受けの悪い白黒映画であるためか、本作はカルト的な人気は高いものの、その素晴らしい内容に反して本邦ではいまいち低い評価と知名度に甘んじているように思われてならない。しかし、本作は間違い無く吸血鬼映画の傑作の一つである。私のような怪奇幻想愛好家以外でも、機会があれば是非とも御覧になって頂きたい怪奇映画屈指の作品。
amazonでこの映画を検索