The Hunger (1983)
Director:トニー・スコット
Cast:カトリーヌ・ドヌーブ / デビッド・ボウイ / スーザン・サランドン / クリフ・デ・ヤング
Production Company:MGM
「ベラ・ルゴシ・イズ・デッド」にのってバウハウスのピーター・マーフィーの妖しげな映像で幕を開ける本作は、全編に渡りMTVを見ているかのようなスタイリッシュな映像が特徴の異色吸血鬼映画である。その耽美的でロマンティックな側面を強調した方向性は、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)へと連なる耽美的吸血鬼映画の先駆けと言うことができよう。
ニューヨークに暮らすミリアムと愛人のジョンは、人間の血を吸うことでその永遠の若さを保ち生き続けてきた吸血鬼だった。しかし、生まれながらの吸血鬼であるミリアムとは異なり人間から後天的に吸血鬼となったジョンには、若さに限りがあった。やがて、ジョンに老いる時がやって来る。自らの美貌と若さが失われることに恐怖しながら、急速に老いていくジョン。そんなジョンの姿に悲しみを覚えつつも、ミリアムは現代的で知的な女医セーラを新たなる愛人として迎え入れようとしていた。
数百年に渡りその美しさを永らえてきた吸血鬼ミリアムを演ずるは、まさに妖艶という表現以外が思い浮かばぬカトリーヌ・ドヌーブ。そしてその愛人ジョンにデビッド・ボウイと、耽美的な映像に負けず劣らずの頽廃的な影を漂わせる美男美女のキャスティング。『血の唇』(1970)の老化メイクで名を馳せたディック・スミスによる素晴らしいメイク技術は、ボウイの美しさによって一層際立ち、痛いほどの悲壮感を観る者に与えることに成功している。映画の中ではほんの数分間、物語の中ではほんの数時間の間に、みるみるうちに年老い、若かりし頃の美しさを失っていくボウイの様はまさに圧巻という他はない。
本作で描かれた吸血鬼の孤独、我々人間が抱く永遠の生への憧れと老いへの恐怖、美意識と愛情の狭間で揺れる残酷な感情といった主題は、屈折した美意識を持つ人間を惹きつけ捕らえるに十分な魅力を放っている。そしてそれが優れた着眼点であったからこそ、この映画を前後して吸血鬼は徐々に正統的で古典的な怪奇映画の主役ではなくなり、耽美嗜好やゴシック・ロック等との距離を狭めていくこととなるのである。商業的には振るわなかった作品ではあるが、吸血鬼映画の新たなる潮流を生み出した『ハンガー』(1983)の意義は大きい。
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