Et Mourir de Plaisir (1960)
Director:ロジェ・ヴァディム
Cast:アネット・ヴァディム / エルザ・マルティネリ / メル・ファラー / マルク・アレグレ
Production Company:EGE ドキュメント
ブリジッド・バルドー、アネット・ストロイベルグ、ジェーン・フォンダと、並み居る美女を妻とし、その時々で「どうだ、俺の妻は綺麗だろ」的な映画を作ったことで我々男性映画ファンの羨望を一身に受けるロジェ・ヴァディムの作り上げた吸血鬼映画。『吸血鬼カーミラ』に基づく、けだるく濃厚に漂うレズビアニズムと耽美的な映像に、最も優れた女性吸血鬼映画との声も高い作品である。
かつて吸血鬼の一族であったと噂されるカルンシュタイン家の末裔カーミラは、幼い頃より従兄弟のレオポルドに恋心を抱いていた。しかし、レオポルドの結婚式を間近に控え、彼女は次第に精神を蝕まれていく。やがてカーミラは、吸血鬼であったとされる先祖のミラーカの亡霊の声に導かれるまま、レオポルドの婚約者であるジョルジアとの愛憎入り交じった倒錯した世界へ堕ちていくのだった。
さて、マニアの間ではすこぶる評価の高い本作であるが、一般的な観点からすると、物語の展開や編集のテンポが少々悪いと言わざるをえない。しかしそれ故にけだるい作風を生み出しているということも事実であり、『血とバラ』(1960)はややカルト性の高い作品である。とは言え、最初の犠牲者となる下女のキャスティングに至るまでの徹底した美女嗜好や、有名なラスト付近でのカラーからモノクロへの効果的な切り替えはヴァディムの面目躍如といったところであり、その耽美的で上品な雰囲気はハマーや数多の吸血鬼映画では決して見ることのできぬ優れたものである。
本作では明示的にカーミラが吸血鬼であることを示す演出はなく、見方によっては人とうまく接することのできぬプライドの高い女性が、恋の終わりによって身を破滅させる物語とも受け取ることが出来る。作品前半のとっつきの悪い演出は、後半のカーミラの精神の高ぶりと共に徐々にテンションを高めていき、やがて最後の悲しい顛末へと至る。本作を私が評価する所以は怪奇的で耽美的な嗜好もあれども、屈折したファンタジーとしての怪奇幻想映画の本質がそこにあるというこの一点に尽きる。異形の者の悲しみ、アウトサイダーの孤独、『血とバラ』にはそれがある。故にカーミラが実は吸血鬼であろうとなかろうと、やはり『血とバラ』は優れた怪奇幻想映画なのである。
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